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キネマの神様のambiorixのレビュー・感想・評価

キネマの神様(2021年製作の映画)
3.4
たしかにジュリー演じるアル中&ギャン中ジジイは新人脚本賞をとったぐらいじゃとうてい償えないレベルのゴミクズ野郎だし(でもそれに関してはジュリーを半世紀もの間甘やかし続けて愧じなかった宮本信子の側にも責任の一端はあると思う)、脚本を書き始めてから受賞に至るまでのプロセスもちょい強引すぎる感が否めないし、さらにいうとウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』もろパクリのプロットが現代の映画人にウケたんだとしたらそれは脚本を現代ナイズした孫の功績だろうとか、いろいろ突っ込みたいところはあるんだけど、それでもジュリーがキラキラした目で過去の脚本のブラッシュアップに取り組むくだりやなんかは観てるこっちもワクワクしてしまうし、家族への贖罪の気持ちを不器用なかたちで述べ立てる授賞式のシーンもベッタベタなんだけどやっぱり泣いちゃった。なので正直な話、俺はみんながボロクソ言うほどこの映画がひどいとは思えなかった…のだが、おなじみの山田洋次的ヒューマニズムが突如大暴走、メルトダウンを起こしてしまうラストは色んな意味で衝撃的で、思わず悲鳴をあげてしまった。映画人としては大成できなかったジュリーを最高の形で、つまり映画館で自分の関わった映画を観ながら死なせてやりたい、という思いやり自体にはいたく共感するんだけど、そのやり方がまずかった。あれじゃあ画面から出てきた北川景子に魂を抜かれて殺されたようにしか見えないよ!もはやリングの世界。でもって、のちにあの映画館には「ああ、上映中に人が死んだ事故物件ね」的な悪評が常についてまわるわけで、地獄だよね。その前の事務所のシーンで、コロナ禍の中で映画館はどうやって生きていけばよいのか…みたいなやり取りをしていただけになおさら切実に感じてしまった。しかもその後のフォローは一切なしてんだから驚き。映画愛・撮影所愛にあふれ、過去の名作オマージュをふんだんに盛り込んだ映画のはずなのに、最後の最後でひとつの映画館を窮地に追い込んで終わるというなんとも皮肉なオチなのであった。
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