メシと映画のK佐藤

ビバリウムのメシと映画のK佐藤のネタバレレビュー・内容・結末

ビバリウム(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

トワイライト・ゾーンや世にも奇妙な物語、星新一のショートショートを彷彿とさせる不思議で不気味な作品ですが、訴えたい事にこの不可思議な物語と云う外装を纏わせていた隠喩が実に巧みでした。
これが本作で個人的に最も気に入っている部分です。

資本主義下の大量消費社会に「必要」はなく、あるのは「欠乏感」のみ。
マイホームを持つ事が人生の目標・夢=「必要」の様になっているが、資本主義下の消費社会においてそれは不動産開発業者が利益追求の為に作ったイメージに過ぎず、人はマイホームを買う為にした莫大な借金返済に人生の時間を削ってゆく。
不動産開発業者は利益追求の為に、どこからも遠く離れた土地に全て画一化された住宅を用意してコストを下げる。
そこには近所付き合いもなく、コミュニティと云う感覚も生まれない。
我々は消費主義に消費されている。
…パンフ掲載の監督へのインタビューによれば、本作のテーマは上述の事だそうですが、これをストレートに訴えたところで単に説教臭い作品になってしまうところ、案内された新興住宅地に不可思議な力により閉じ込められて生きて出られない(結局主人公のトムとジェマのカップルは生還出来ませんでした。)と云う摩訶不思議で恐ろしい物語に仕立てて訴えているのは流石の一言。
・謎の存在から主人公カップルに供給される物資はパッキングされている→人間らしさの喪失
・主人公カップル以外に住宅地は無人→コミュニケーションの希薄化
等々。
一見すると不思議な物語に、これ程のメタファーが込められているとは…!

物語の組立方も巧みで、高評価の要因となっています。
カッコウの托卵と云う習性の解説、トムがカッコウの托卵により死んでいた雛鳥を埋葬すると云う行為等、後々の展開・主人公カップルの末路の伏線張りを冒頭で済ませてしまっていたのはお見事。

主人公カップルを住宅地に閉じ込めた存在の正体は謎のまま(パンフに寄稿された映画ライターの解説ではエイリアンの静かな侵略と断言してしまっていますが、劇中ではそんな事一才言われていません。)ですが、この存在はあくまで監督が訴えたい事のメタファーなので然程気になりませんでした。
主人公カップルの前にも住宅地に閉じ込められて犠牲になった人々はいて、主人公カップルの死後も謎の存在による「托卵」は継続して行く…と云う何ともイヤ〜な〆方でしたが、これまた上述のテーマのメタファーになっているのだと考えると、これ以上のエンディングは無いんですよね。
尚、主人公カップルを住宅地へ案内した不動産開発業者のマーティンと主人公カップルに預けられた成長速度の速い赤ん坊が同一の存在である事も、住宅地案内時にさりげなく伏線が張られています。

コロナ禍である事に加え、トム役のジェシー・アイゼンバーグ以外は日本で名の知れたキャストがいない事、結末も含めて一般受けしそうにない内容である事から公開規模は大きくないですが、個人的には早くも今年鑑賞した映画でベスト10の一角候補となってくれた作品でした。