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春を告げる町のcocoapowderのレビュー・感想・評価

春を告げる町(2019年製作の映画)
4.2
仮設の映画館@まちポレいわきにて。

福島県広野町に生きる様々な人達の姿を映しながら、「復興とは何か?」という問いを投げかける作品。
この映画を見て感じたのは、当たり前ながら、「復興」というのは一つの形があるものではなく、経った時間や人によって違うものだということだ。私は広野町のある双葉郡と同じく原発のある町で生まれた。そこでは、その町に住む人達の会話の中にごく普通に原発についての話題が入ってくる。他の町に住む人にとっては原発は異物だろう。しかし、その町に住む人達にとっては当たり前に存在するものであり、共存する対象となっている。また一方、広野町に住む人達は、時を経て復興と向き合い、共存し、そこにあるものとして受け入れながら、生活を積み重ねている。私が生まれた時から共存する対象として既にそこに存在していた原発と、作品の中で震災から7年後に生まれたあんちゃんにとっての復興とは、比べられないとは思いながら、もしかしたら少し似たものなのかもしれないと思った。
私が一番この作品の中で胸が締め付けられ、涙がこぼれたのは、女の子が防護服を着て、手袋をしながら、避難し今は住んでいないかつての家でピアノを弾くシーンだ。まったくもの悲しくなさそうに弾く姿に、どうしてこんなことが起きて、こんな目に遭わなければならないのだろう、とその明るさが逆に切なく、理不尽さをより一層感じた。
この作品は今の広野町の姿を捉えている。何気ない暮らしの豊かさに心を打たれる。
広野町のキャッチコピーは、「東北に春を告げる町」。
春が来るたびに、かけがえのない瞬間が積み重なっていく。
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