逃げた女
核心をついた意味深い良い邦題である。
一見本筋が見えにくい作風であるが故に、この邦題が鑑賞後深みを増して静かな余韻にひたらしてくれた。
終始何も起こらず淡々とした会話劇と食事のシーンの繰り返し。
そして時折見せる人を食ったようなズームアップ…
ホンサンス監督の正に本領発揮である。
画角も素人が撮るようなカットが時折見られ思わずほくそ笑んでしまった。
繰り返し知人宅を訪問するガミの行動は現実は満たされていない自分の現在の立ち位置を探る行為そのもので、我々が同窓会に出席する行動と一理似ていると劇中感じ取れた。
韓国映画は食事のシーンの取り入れ方が全般的に上手であるが本作は特に作中非常に良いアクセントになっていた。
林檎の皮を登場人物各人が剥くシーンが繰り返しあるが、剥き方ひとつで人物背景をぼんやりと描き出しており繊細な表現方法で目を引いた。
ラストシーン、ガミは一体何を想ったのか。そして何を探し当てたのであろうか。作品全体に余白があり観客各々が色々と思いを馳せる事が出来、じんわりと後に引く味わい深い作品であった。