Haru

逃げた女のHaruのレビュー・感想・評価

逃げた女(2019年製作の映画)
4.0
ホン・サンス作品初鑑賞。
なるほど、こういう撮り方をする人なのかと開始早々納得。映画やドラマでよく使われる様々なカットが全く使われず、長回しとは言わないけれどもほぼ一点からずっと撮影される。目線の移動はズームか、横に振るだけ。基本女性たちの会話も横顔だけ映すスタイルで、第三者的な目線で会話劇を眺める。

カット数が少ないからスタッフも普通の現場よりは時間の余裕がありそうだし、役者も自然に演じられそうな気がする。同じ場面を何度何度もいろんな角度から、という過程がない分。
その効果なのか、全体的にドキュメンタリー的、他人のホームビデオなんかを見てるような感覚になる。ズームインやズームアウトの絶妙な素人感もその効果を増幅させている気がする。

それでもカメラワークにはある一定の決まりがあって、基本訪ねてくる男性の顔はほぼ映さず、後ろから背中だけを映す。最初はなんだ、女性の顔だけを見せるのは何故…と思ったけどよくよく考えると観客の目線を男性の目線と重ねていて、それも意図的なもの、というのが良かった。男性の視線から語られる物語は多いけれど、それが自然すぎて普通は視線操作に気づかない。こういう独特な撮影手法をとる監督だからこそ、できる描き方だった。

はちどり先生とのやりとりだけ、ただの反復では無くなって初めてキムミニが動揺した姿を見せるのも、違う行動を取り始めるのも、それ以前の2回反復があったからこそ新鮮で、引き立つ。多分全てが意図的に仕組まれているんだろうな…それを読み取るのがすごく面白い。美術館で見る映像作品に近いような、解読する面白さ。

煙に巻かれたようだ…という人もおそらく多いとは思うし好みは分かれる系映画だとは思うけれど、見た後に一旦立ち止まって考えてジワジワくる良さがあるんじゃないかな…
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