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アウステルリッツのkchのレビュー・感想・評価

アウステルリッツ(2016年製作の映画)
4.3
この映像だけを見て、ジャッジを下すことは、かなり難しい。無邪気に記念写真を撮る人たちが、悪人であるわけはないし、何も感じずに敷地を出ていくわけでもない。たくさんの誰かが飢えて死んで行った場所で、スナックが5分我慢できなくても、たくさんの誰かが涙も枯れるほどつらい日々を過ごした場所で、笑みの溢れる瞬間があっても、それ自体は責められるべきことでもない。

わざわざ収容所を訪れる人たちは、訪れることを選ばなかった人たちよりもずっと関心があるのだと思う。しかし、なお悲しいことに「関心があって赴いた人にも関わらず、その程度」なのだ。磔にされた柱の前で真似をして写真を撮ったりするようなことこれもまた、悪人であることの表象ではないものの、無知や想像力のなさを示してしまっている。
そして、何枚も何枚も写真を撮る人々は、その瞬間に関して言えば、ここで起きた凄惨な事実より、自分たちがよく映ることを気にしている。ここにいる誰しもに「何より大事にすべき、続いていく生活」があることも事実なので、そんな日々を切り取る記念写真を撮ることも別に責められたことではないのだが、とはいえ現前する存在が無視されているとも感じる。

色々考えを巡らせてはいるものの、結局のところロズニツァ監督は、群衆に「語らせる」ことをしない。『国葬』にしろ『粛清裁判』にしろ、実際にどんなことを感じ、思っているのかを人々に語らせてはくれない。何も考えていないかもしれないし、実は抗っているかもしれないし、再び戦争が起きない世界を本気で願っているかもしれない。映画館でのうのうと画面を眺めるわたしたちには、実のところ何も分からない仕組みだ。

そしてわたしも、この感想を書き終えたらまた当たり前のようにご飯で腹を満たす。世界で起きている悲しい出来事について考えていますよ、みたいな顔しても結局は自分の胃袋の方が大事......
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