水蛇

アウステルリッツの水蛇のレビュー・感想・評価

アウステルリッツ(2016年製作の映画)
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これを「アウステルリッツ」と名付けるのか。

東欧で、ジェノサイドの現場の近くに住んでたことがある。そこで身内を失った友人達もいた。どんな季節でも天候でも献花が絶えたことはなかった。わたしの住んでた家含め半地下のある建物が多いのもその歴史の名残だった。観光客がほとんど来ない忘れられた国だから静かだったけど、ローカルの中には「ダークツーリズムでもっと知られてほしい」って言う人も結構いた。経済的なこともあるだろうけど、忘れられてほしくないんだよね。白人しかいない土地でわたしは「ローカルなわけないから英語が通じるはず」と踏んだ外国人観光客に道を訊かれることが多くて、その目的地は大体が中央駅かその場所だった。たいてい彼らに「行ったことある?」って訊かれるんだけど、感想を知りたいんだろうなと思いつつ一度も見てないから何も言えなかった。子どものころ広島で寝込んで以来ドイツでもポーランドでも何も見ないようにしてる。文献やドキュメンタリーは見るけどそれ以上はできない。この話はすごく難しい。今も結局「これをダークツーリズムと称してヘラヘラ消費するにはわたしは感受性が豊かで心が清すぎるので」みたいになっちゃっててうんざりする。猫と暮らしディスカバリーチャンネルを楽しむ一方でステーキもお刺身もおいしく食べられるような命の選別をしてしまってる人間だし、ただ耐えがたいものは見ないという選択が許される立場を享受してるだけだ。徒歩2分の場所に住んでいながら目を逸らしてたともいえる。虐殺のあった場所のすぐそばで笑いながら楽しく暮らして「あのチケット取れなかった死にたい」って嘆いてたわたしがここに映る人達を不謹慎だとか言ったら殴ってほしい。見る人も見ない人もそれぞれの矛盾や葛藤があるのがわかるからこの映像を感じたままに語るのは簡単じゃない。ほぼ混乱してる。でもツアーの一環であれ肝試しであれ、現場を見るだけ意味があると思う。生き残った人達もわたし達も忘れてたまるかと思ってるんだから。
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