HidekiIshimoto

アウステルリッツのHidekiIshimotoのレビュー・感想・評価

アウステルリッツ(2016年製作の映画)
4.0
暮れにたまたま大岡昇平の原作を読み始めたせいで、年の明けた深夜から塚本晋也の『野火』をまた、しかもプロジェクター&ヘッドホンでいうトチ狂った失策鑑賞で明けた元旦。もう開き直りで初映画もこれ。と観はじめたらこれ、ほぼ80年も前のレイテ島生き地獄をずっしり再現する野火の真逆のような意外な映画だった。たとえアウシュビッツのような悲惨でも、ほぼ80年も前のことはどこかで悲惨の実感は途切れる、ということをこれほどはっきり観せる映画は今まで観たことない。確かに古墳ツアーとかで「この前方後円墳は建造時に罪もない三千人の人々が生き埋めにされました」と説明されても泣く人なんかいるわけない。けどマイベスト本『笑いと忘却の書』の中で「権力に対する人間の闘いとは、忘却に対する記憶の闘いに他ならない」とミラン・クンデラは書いていた。この情報過多のスマホ時代、忘却の速度は加速度的に上がってるんだな…とずっしり思わされた。ラストの現代版『工場の出口』映像では、海馬が過呼吸みたいな息苦しさを感じて脳がパクパクした。