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DAU. 退行のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

DAU. 退行(2020年製作の映画)
4.5

ようやく観られた。上手く纏まった映画より、得体の知れないゾクゾクするような妙な映画が観たいと思っている方なので、こんな壮大で狂気じみたプロジェクト(※文末の公式サイトの紹介文を参照)から生まれた作品はどうしても無視できない。
はっきり言ってこれだけの上映時間が必要だったのかどうかもわからないし、もっと言えば面白かったのかどうかもわからない。
しかし明らかに旧ソ連時代の街を丸ごと再現した常軌を逸した何かが映し出されている。こういうのが観たいのだ。

絶え間ない科学の進歩と、その恩恵としての人間の革新を目指すソビエト連邦の思想 生体を用いた実験の狂気じみた奇妙さ。チンパンジーも。

雁字搦めの監視社会と、モラルの荒廃。酒を飲む量も異常なら泥酔した彼らの羽目の外仕方も異常。何枚皿を投げつけて割るのか(前作「DAU.ナターシャ」では魚を投げて遊んでた)。

豚のシーンの直球の異常さ。ダンテの「新曲」。

全員が揃って「科学の未来、万歳」的な歌を合唱するシーンの圧倒的な異常さ。

それらのシーンも然ることながら、合唱の後にアジッポガ妙な引き方でオルガンを演奏するその奇妙さ。こういう細部にも狂気が宿っているように思う。

本作鑑賞後に、配給会社㈱トランスフォーマーの映画買付け担当の方が対談するYouTubeを観た。
「この映画を観た瞬間、何か可笑しなものが映し出されていると思って買付を決定した」「評価が決定している映画を、なぞるように観る事より、何か得体の知れない映画を観るスリリングな体験を味わいたい。その場に立ち会える幸福がある」という旨の事を話していた。
まさに我が意を得たり。トランスフォーマーさんは「アクト・オブ・キリング」「ムカデ人間」を買い付けていたり、その担当さんに限ればA24『mid'90s』の買い付けもされたそう。『mid'90s』については鑑賞後すぐに会社に電話し「これヤバイから、他社に買われないようにすぐに買い付けて!」と主張したそう。慧眼。信頼しかない。
 
DAU.シリーズはこの後さらに16本の映画作製ガ予定されているらしい。全て見届ける所存。


↓↓↓↓公式HPより引用↓↓↓↓
映画史上初の試みでも異次元レベルの構想と高い芸術性が評価され、第70回映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した映画『DAU.ナター』は、本年2月27日にシアター・イメージほかフォーラムで世界初と劇場となる主義を公開、ミニシアター・ランキングの上位に長期に渡ってラインクイン。そして
この度、続編公開希望の熱い声に応えて、「DAU」プロジェクトの劇場映画弾、『DAU.ナターシャ』で描かれた、ソ連全体主義のその後の世界を描く、「DAU」 』プロジェクトの劇場映画第二弾、『DAU. 前行』が公開となる。

ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーは処女作『4』が各国の映画祭で絶賛を下げると、「史上最も狂った映画撮影」と呼ばれた「DAU」プロジェクトに着手。ある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、「ソ連全体主義」の社会を完全に再現するという前代未聞の試みだった。あったハリコフに欧州史上最大の1万2千平米もの秘密研究所のセットを作り、実にオーディション人数約40万人、衣装4万着、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヶ月、撮影ピリオドごとに異なる時間軸、35mmフィルム撮影のフッテージ700時間という莫大な費用と15年以上もの歳月をかけて「DAU.」の世界が
構築された。弾として完成した『DAU. ナターシャ』がコンペティション部門で上映された第70回映画祭の別部門で上映されたのが、本作『DAU. 前行だ。

実に6時間9分にも言える大長編であり、『DAU. 『ナターシャ』が描き出したスターリン体制下の1952年から10年以上が経過した1966年~1968年が舞台となる。前作ではカフェのウェイトレス
であるナターシャの視点で閉鎖的かつ断片的に描かれた秘密研究所、本作では一転、カメラ
本作はイタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリによる長編叙事詩「神曲」の「地獄」本作共同で監督を務めるリヤ・ペルミャコフ監督は、「国家が社会的に荒廃していく状況が迫った」で描かれた9つの地獄の層にちなんだ9章で構成されている。いつ、どのように気づき、対処するかを、映画というメディアを通して学ぶことは非常に重要だと思います。を扱っており、ただ分析するだけでなく、これらの状況を見た時に皆さんに深く感じて欲しいのです」と話している。

この超大作を観れば、初弾『DAU. スタンリー・キューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』やジョージ・オーウェルの代表作「1984」が描いたディストピアを現代にアップデートさせ、その先の深淵に迫ろうとするような鬼気迫る一大叙事詩は、この禍コロナによって妥当な評価を下されることがなく(米批評家サイト、ロッテントマトのレビューは2021年7月)月16日現在3つしかない)、また本国ロシアでは上映禁止となりたいわくつきの作品である。『ナターシャ』が好評を博したことで、第二作目を見て完結編とも言える『DAU. 前行』が世界で劇場公開となる。

ファシズム、優生学、性搾取、差別……人間の暗部を余すことなく抉り出し、現代社会への警鐘を鳴らす本作は、映画史の闇に埋もれてしまう前に評価されるべきである。
↑↑↑↑以上、公式HPより↑↑↑↑
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