サイバー偽善者

最後にして最初の人類のサイバー偽善者のネタバレレビュー・内容・結末

最後にして最初の人類(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

気合い入れてレビュー書いてたのにアプリ落ちてめちゃくちゃ萎えているけど、こんなに素晴らしい映画をわからないと言っている人が多くて悔しいのでもう一回書く。わかった上で退屈だと感じる人はいると思うけど、そこまで難しい話ではないよ!

設定として、ナレーションで語られているのは遥か彼方の未来から私たちに送られてきたメッセージ。送信元は、まもなく絶滅としようとしている人類の末裔。彼らは私たち助けを求めている。

冒頭でそれが説明されたあと、ざっくりあらすじを言うと、人類がこれからたどる歴史と、彼らが今どんな生を送るのかが語られる。地球に住めなくなって、遺伝子を改変した彼らは私たちとは似ても似つかない姿で海王星に暮らしている。何千年も寿命があって、でもよりよい性質の人類を作るためにときどき子供をつくる。

しかし天文学的な災害のせいで彼らの星ももうあとわずかで住めなくなってしまうことがわかった。彼らも放射能を浴びてほとんどが死に絶え、残った僅かなものも傷ついてなんとか生き延びている。そして彼らは、最後に残された時間ですべき使命として、私たちにメッセージを送ってきた。

彼らが伝えてきたメッセージは「最善の未来を選んでほしい」ということだった。それで人類が絶滅する未来が変わるわけではない。ただ彼らは私たちにそう伝えることを義務だと感じてそう伝えてきたのだ。

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誰かの遺言を聞いたことがある人はわかると思うけど、最期に言い遺す言葉って、損得や欲望が一切なくなった状態で、残った純粋な願いや祈りの言葉なんだよね。だからものすごく重くて力がある。その人の人生がかかった言葉だから。

だから最後に何かを託された人は、その言葉を軽んじることはせずに応えようとする。遺言にはそういう力がある。

この映画は絶滅する人類からの遺言だ。最も善い未来を選んでほしい。

このメッセージを本気で真に受けることができるかどうか。私がいま彼らの言葉を聞いたのだ、と、最後の人類に想いを馳せることができるかどうか。これからの未来に流れる長い長い時間を思い描くことができれば、この映画はものすごく心に響く。

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映し出される映像は、人類がいなくなったあとに残される風景だ。人類がいなくなったあとも遥かな時間が流れるだろう。それを思わせる静謐な画面。ときどきあっと目を瞠るような美しい構図が表れる。

画面には建造物と風景しか映らない。どの建造物もオブジェか、もしくは記念碑とでもいうような形をしていて、それをカメラは様々なアングルで切り取る。抽象画のような、規則的でありながらも歪みのある線。それは人間が創ったものである証だ。

ヨハンソンの奏でるサウンドが映像に華を添える。ヨハンソンは本気で、いつの日か絶滅する人類の冥福を祈って鎮魂歌を作ったのだ。

そして人類の死にはもちろん私たちの死も含まれている。この映画は私たち全員の死への餞だ。

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しかし重要なことは、このタイトルにもある『最後にして最初の人類』の「最初」の部分だ。

思い出してほしい。未来人たちは、過去に意識を飛ばして経験を共有することができるようになったと語っていた。

そのとき彼らは、過去のすべての記憶を辿り、すべての人類と出会ったのだ。彼らの目の前に、すべての死者が復活した。私も、あなたも、ガンジーもキング牧師もスターリンもヒトラーもジョン・レノンもポル・ポトもナポレオンもルイ16世もキリストもブッダもムハンマドも、彼らの目の前に次々と蘇った。だから彼らは最後の人類であると同時に最初の人類でもある。

そのすべてを見てきた彼らに残ったのは人類愛だった。そして彼らはそれを私たちに伝えようとしてきている。
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最後にして最初の人類である彼らは私たちの遠い子であり遠い父である。これを単なるそういう「設定」として受け止めてしまうのではなく、本当にそういうものだとして真に受けてみてほしい。

この映画は確かにフィクションである。だけど、「最後の人類」は、いつか人類が絶滅する日に現実に現れる。彼らが過去を振り返ってなにを思うだろうか。最後の人類が過去の人々を恨むのか、それとも愛するのか、わからないが、それはいま生きている私たちに懸かっている。それはフィクションではなく現実の話だ。