このレビューはネタバレを含みます
【謝罪なき場所に幸なし】
マンガ原作ばかりの邦画界（←偏見）においてオリジナル脚本、登場人物の設定と配置が絶妙。
その、登場人物たちがひたすら「正しい」を模索してた映画でしたね。
1年くらい前にメルカリを始めたんですけど。
予想してた通り色んな人が居て、「こちらの常識はアチラの非常識」な世界なんですよね。
特にトラブルに遭った訳ではないですが自分の正当性を主張しコロナの自粛警察ばりに我れ正義と相手に悪い評価を付けたりしてるユーザーとか垣間見てると、つくづく「常識」とか「普通はこうでしょーよ？！」って自分の基準なんて全く意味を成さないんだなと思うんですよ。
さておき。
常日頃からワタシは交通事故は被害者より加害者側には絶対なりたくない（特にまさしく今回のようなケース）と思ってるのもあるし、あらすじからしてコレは観てる最中居ても立っても居られなくなる“どんずま倫理映画（韓国映画トガニ的なやつ）” だと予測できたのでスルー予定だったけど周囲の観る価値あるよとの声から鑑賞。
途中までは予想どおりウガァーッウォオー（←語彙）って感じでしたよ。
「こちらの常識‥‥」で言わせて貰えば、例えばもし自分があの最初にはねたドライバー女性だったら、あそこまで自責の念には囚われないと思う。法律上では前方不注意とかで罰せられるとしても、「あんなの避けようが無いでしょうよ」と思う。
けど「人一人を轢き殺しておいて！」と非難する人も居るでしょう。
なので自殺の展開はちょっと‥‥と思ったけど、この女性の自殺により古田新太自身が被害者でありながら別では「追い詰めた側」の半加害者になってしまった上、この母（片岡礼子）から憎しみではなく許しを請いながらの謝罪の言葉を受けたことで古田新太の気持ちが「赦し」に向かうキッカケとして必要だったのかな。
夫婦だった時はおそらく古田新太は田畑智子演じる妻に謝ったことなど無かっただろう。
けどいろんな出来事が重なり、いつもの口調で元妻をなじってしまったすぐ後に謝罪の言葉が言えるようになる。
片岡礼子には開口一番『謝らないからな』とか言ってた人が、である。
光が見えてくるのである。
けど逆に言えば、古田新太が偶然にも娘の万引きの形跡を発見できないままだったら、最初のドライバー女性が自殺せずその母のあの言葉を聞くことが無かったら。
古田新太は誰も許せないまま辛く長い時間を過ごしたかもしれない。
と言うか現実はこのパターンがほとんどなんじゃないかと思う‥‥
寺島しのぶ演じる「正しいオバさん」。
こういう、自分こそが正義で愛に溢れている、そう自己暗示かけないと生きていけないオバさんて「偽善者」のひとことでは片付けられなくてもっと闇を抱えてるんですよ。その辺の描写が薄かったし寺島しのぶは“パートのオバチャン感” を醸し出すことは出来ず大物女優感が抜けてなかったな〜^^; 役柄として貧乏クジ引いたような。
ただ、映画としてはこの正しいオバさんの存在は諸々の引き立て役として大きくて、例えばこのオバさんの自己満足的な優しさより藤原季節くん演じた弟子？の古田新太への距離感の方がよほど相手を慮っており、この対照的な二人の真逆な「優しさ対比」の描写。
また、正しいオバさんと同じく『あなたのためを思って言ってあげてるのよ』と、自分の中でこれを正義とすることで自己肯定感を上げようとする担任教師。この二人の「間違った正義感」描写。
松坂桃李に対し「私は弱い人を救ってあげている」と陶酔しながら、自己主張できないボランティア仲間に対してはハッキリと“自分より弱い立場のヤツ” と認識し利用する寺島しのぶの「間違った奉仕精神」の描写。（最後は自己嫌悪に陥ってたぽいけど）
誰しもみんな、『自分は正しい』と信じていたい。
古田新太パパはきっと親は子供に謝ったりなんかするもんじゃない、とか思ってるタイプだと思うけど、親だって子に間違った事をすれば謝るべき。
娘が生きてる時に「怒鳴ってすまん」とか「カッとなって携帯捨ててすまん」とか言えてれば、もう少し距離が縮まってたかもしれないよね〜。
けどそれはよく言われる『失って初めて気付く‥‥』なのが悲しいところ。
漁師ひとすじ！みたいなオッサンが女子中学生と解り合おうなんて無理。
世の中の父娘なんて大概そんなもんだろうけど、けど二人して『空飛ぶイルカ』を描いてる描写が、そうは言っても（遺伝子的には）親子なんだね〜〜と伝えてて（そんな偶然あるかよ！とは思うけど^^; “空白”部分としてあえて描写しなかった説も？）、何かと救いのあるラストでとても良い作品でした。
◆ワイドショーの司会が坂上忍と被ったのはワタシだけ？？^^;
◆松坂桃李は狐狼の血II みたいなギラギラした役よりこーゆー没個性みたいな役の方が光るような。
◆校長先生がいい演技してました！！
◆先日、池袋暴走事故の“上級国民”被告が収監されました。
方や生き恥を晒し自己保身、方やフィクションだけど自殺。どっちが正しいなんて答えは出ないけど、死ぬ時に恥な人生だったと後悔はしたくないものです。
