めーぷる

空白のめーぷるのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
3.0
誰もが被害者で誰もが加害者。モチーフとなった某事件のことは当時の掲示板まとめサイトで見たことがあったけど、そこで目にしていたコメントはまさに劇中で描かれていたマスコミの印象操作で踊らされた人々ものだったのだと痛感。

しかし、物語の中で誰にも感情移入はできない。みんな悪くて、みんな可哀想。
本来被害者で同情されるべき立場であった添田も例外ではなく、頑固オヤジで大して子どものことを見てもいなかったのに随分都合の良い性格なんですね、と思ってしまった。子を失う悲しみは本物だろうが、怒りのままに当たり散らす様が哀れで仕方ない。

ただ、終盤元妻と会話して「羨ましかったんだよ」とやっと素直に己と向き合えたシーンはすんなり飲み込めた。
船と家庭の描写しかなかったように、添田にとって世界は仕事と家庭、たったそれだけだったんだろうな。それなのに、妻とも別れ、唯一残った娘すら奪われて、現実を受け入れられずどうにかして自分以外のどこかに理由を探して、怒って。
以前、50になる私の父がぽつりと呟いていた「世界から置いていかれる感じがして寂しいんだよ」という言葉がふと浮かんだ。
父はおそらく、IT化してわからないことばかりが増える時代に取り残されつつあることを言ったのだろうけど、何かイライラしている中高年はきっとみんなそういう孤独を抱えているのだろうなあ。

少し脱線してしまったが、色々考えさせられる良い内容だったように思う。ただ個人的には、感情移入できる人物がいないことでつらつらと記録を聞かされているようで「ほーん…んで…?」となってしまって、ずーんと気持ちが落ち込むわけでも泣くわけでもなかった。
完全に同情できる人間がいない、という点においてはこの上なくリアルで素晴らしい人間描写だとは思うけど、自分には合わなかったので☆3。
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