めーぷる

オッペンハイマーのめーぷるのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
史実をただ刻々と、淡々と語る。オッペンハイマーの口から直接彼の葛藤や弱音が出てくることがないのが、現実主義的な科学者らしい。けれどしっかりその瞳は彼の心情を物語っていて、キリアンマーフィーの演技力が存分に味わえた。
印象的だったのは日本への投下成功の報が入ってからの、ロスアラモスお祭り騒ぎのシーン。我々はどんな被害が起きたのかよく知ってるので、こんな手放しで喜べるものなのかとやはり日本人として思うところはあった。世界中でこういった感情で受け取れるのも我々だけなのでこの感情は大事にしたい。
まあ3年もの時間をかけた"研究"が成功したのだから当然ではあるが、そうまでして達成した偉業の使い道に決定権がない=責任をとれず、しかし大量虐殺のいのちの重みだけが両手にのしかかる残酷さがひしひしと感じられた。
演出面に関して言えば特筆するような視覚効果は初見ではそんなに感じられなかったかな。強いて言えば公聴会で詰問されたときに、オッペンハイマーの感情と共に背景の棚がガタガタ震えてたのがおもしろいなと思ったくらい。対して音響に関しては素晴らしいと思った。
トリニティ実験を目で見た瞬間の静寂、成功の確信、美しいとすら思える火柱。しかし後から襲いくる爆音、爆風、悪魔を生み出してしまった実感。栄誉と絶望が同時に降ってきたこのシーンめちゃくちゃ好き。
ただ今回は原作があるのと史実なので、見てる客に何を見せたくてどんな感情にさせたいのか、能動的に仕掛けるような演出だとあまり感じなかったのでそのあたりパンフやインタビュー記事読んで作品への解像度を上げてもう一回見に行きたい。
めーぷる

めーぷる