おもしろいという映画ではなく、万引きの疑いで逃走した高校生の事故死に始まる鬱展開。その事故場面がショッキング(言及だけで直接的な描写はないが)なことも尾を引き、父親の狂気もはらんだ憎しみがこの作品を余計に重い展開にする。モラハラな父は娘をはじめ周囲の人の話に耳を傾けない。エゴイスティックな言動で関係する人びとを振り回す。マスコミもそれをおもしろおかしく取り上げて、大衆がそれを無責任に消費する。当事者になった事故死の原因を作ったスーパー店長の言葉は切り抜いて都合良く伝えられ、励ます善意さえも凶器に変わって彼を追い詰める。
終盤になってその父親も頑なな態度を和らげるが、どうやって折り合いをつけるのかとつぶやくように、根本的には人として赦すこともできず変貌などしていない。振り回した人たちに逆に謝りたいと気持ちも吐露するが、それができない。最後まで事件の真相が明らかにはならず釈然としない。誰が被害者で加害者なのかもわからなくなり、亡くなった人間は戻らず残された傷痕は深い。
けれども亡くなった娘の残した絵の中に海の上の雲がイルカのように映っているのを見て涙する場面はかすかな光明（と信じたくなる）。この映画の公開記念で、娘役の伊藤蒼が壇上挨拶に立っている動画を観てほっとしてしまった。あんな酷いことにならずほんとうに良かった。
覚悟して見るべし。
