真一

アイヌモシリの真一のレビュー・感想・評価

アイヌモシリ(2020年製作の映画)
4.7
言語が奪われても
恨まない。
文化が弄ばれても
いら立たない。
見世物にされても
怒らない。
ただ、知ってほしい。
あなたたちが
何をしてきたかを。
分かってほしい。
あなたとは、対等な
人間だということを。

 少数民族のアイヌから、現代日本の圧倒的多数民族であるシャモ(和人)👥への、切ないメッセージが込められた作品。監督は、姨捨伝説を映像化した新作「山女」(主演・山田杏奈)の福永壮志。

 舞台は、大自然🏔️に囲まれた北海道・阿寒湖のほとり。主人公は、母子家庭に暮らす地元中学2年生のカント👦だ。「カント」は、アイヌ語で「天」の意味。ある日、カントは、早くして世を去った父親の友人デボ🧔に誘われ、山⛰️に入る。連れて行かれた先にはオリがあり、そこにはつぶらな目をした子グマの「チビ」🐻がいた。一目で子グマを気に入ったカント👦は、誇り高きアイヌのデボ🧔に勧められるまま、チビ🐻の世話を始める。そして、それまで無関心だった自分のルーツ🧬への思いを強めていく。

 その後、カント👦は思いがけぬ話を聞かされる。大好きな「チビ」🐻は、神へのお供え物であり、生け贄として殺される運命にあるというのだ。カント👦の「そんなの、あり得ない」という悲鳴を無視するように、アイヌにとって最も重要な儀式だという「イオマンテ(子グマの霊送り)」の準備は着々と進む。

 守るべきは、可愛い子グマの命か。それともアイヌをアイヌたらしめる「イオマンテ」の儀式か。アイデンティティーを巡る葛藤が、カント😭を襲う―。

 心に刺さったのは、私と同じようなシャモ(和人)👥が、アイヌへの心ない発言を無意識に発するシーンだ。カントの母親👩が切り盛りするアイヌ民芸店に、シャモの観光客👤が入ってくる。

「ここ、アイヌの店?」(和人)
「はい、そうです」(母)
「あなた、アイヌ?」(和人)
「はい、そうです」(母)

 次に、シャモの女性観光客👤が登場。丁寧な口調でこう言う。

「日本語、上手ですね」(和人)
「(ニコニコしながら)ええ、一生懸命勉強したので」(母親)

 イオマンテの噂を聞き付けた新聞記者✒️(リリー・フランキー)と、デボ🧔のやりとりは、さらに際どい。

 「熊殺しを理解してもらうのは難しいと思う」(和人記者)
 「シャモならそういうべな」(デボ)
 「いや、そういう意味で言ったんじゃない」(和人記者)
 「フッ、大丈夫さ。からかっただけだ」(デボ)

 「差別だ」「ヘイトだ」と怒らず、笑顔で応じるアイヌの人々🙂。でも、額面通りの笑顔ではない。何かを悟ったような笑顔だ。多数派に踏みつけられたマイノリティーの微笑みの真意を、私たちマジョリティー👥は理解できているだろうか。

 本作品は、アイヌの人々の誇りや生き様を通じ、人として失ってはいけないものとは何か、忘れてはいけないものはなにかを考えさせてくれる映画です。そして美しい阿寒湖の風景🏔️、流れるアイヌの歌声🎵は、北海道の大自然に飛び込んだかのような気分を味わわせてくれます。心に残る一本です。
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