まさ

のさりの島のまさのレビュー・感想・評価

のさりの島(2020年製作の映画)
3.7
オレオレ詐欺で金を稼いで渡り歩いている藤原季節演じる男は流れ着いた熊本天草で詐欺を働く。詐欺の電話に応じた楽器店の老婦は、金を受け取りに来たこの男を孫として招き入れ、温かい風呂にうまい料理でこの男をもてなし、加害者の男と被害者の老婦との奇妙な共同生活が始まる。「祖母」と「孫」のやり取りを通して交わされる不思議な優しさ。自らもくすねようとした置きざらしのセルフの店の代金箱を前に、お金盗られないのと問う男に、その人にはそれが必要だったということだと答える老婦。その懐の深さとともに、彼に必要なのはお金ではなく愛であることを感じ、「祖母」という姿で振る舞ったのではなかったか。男がひょんなことで出会う、地元コミュニティラジオDJの女性も、地元愛が強い、情の深い魅力的な人柄。温かい眼差しで彼を見つめる。話の伏線を支える、夜の寂れた商店街で一人女性が奏でるブルースハープも素敵。そう言えば、大学時代のサークルに熊本出身の女性がいたっけ。同じサークルの友人で、我が道を行く、なら言葉はいいが、ワガママで癖があり過ぎる、そんな奴の彼女だった。どうしょうもない彼のことを受け止めつつ、奴の友人である冴えない俺にも気を遣って温かく接してくれる、そんな女性だった。懐が深く、芯の強い女性だった。友人の部屋で3人で酒を飲みながら、火の国の女は強いな、なんてことを笑いながら話していたような気がする。そんなことをつい思い出してしまった。もう20年以上も経つ過去を振り返り、もう彼らに会うことはないのかもな、今何してんのかな、なんてちょっとノスタルジーに浸る。こんな気分をふいに連れてきてくれたこの作品に感謝。映画万歳。
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