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街の灯のpicaruのレビュー・感想・評価

街の灯(1931年製作の映画)
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『街の灯』

チャップリンの映画。
惚れ惚れするようなタイトルに誘われて。

浮浪者の男(チャップリン)と盲目の花売りの少女のロマンティック・コメディ。
彼女は街角で偶然出会った主人公を金持ちの紳士だと勘違いしてしまう。

目の見えない相手とのラブストーリー。
手術によって目が見えるようになり、真実が明かされるヒューマンドラマ。

どこかで聞いた話だと思った。
その“どこかにある”はずの物語こそ、“ここにしかない”チャップリンの傑作だったのだ。

チャップリンが生み出すコメディのおもしろさは言うまでもない。
相手の「目が見えない」という個性をユーモアで描き、一目惚れした彼女のためにお金を稼ごうと奮闘する姿も遊び心があって、一秒も飽きることなく楽しませてくれる。

ただ、本作で「笑い」以上に際立っていたのが「美しさ」だ。
一輪の花からはじまる恋。
花の香りで相手を感じる時間。
少女が花を愛でるように育まれる日々。
花をモチーフにした物語の美しさに息を呑む。
小さな家で暮らしていたヒロインが手術によって視力が回復した後、お花屋さんで花に囲まれて過ごしている。
それは生活の変化の描写だけではなく、彼女の世界そのもののメタファーだった。

チャップリンのすごいところは、「目が見えない」ことを決して欠点として表現しないことだ。
「弱い立場にある相手に優しくしなきゃ」なんて義務感はなく、同じように世界を共有する。
視力がなくても、優しさ、喜び、希望を感じることができる。
世界は一ミリも失われない。

目が治った彼女と再会するとき、ようやく恩人をこの目で見られたと歓喜するヒロインよりも、主人公のチャップリンのほうが幸せに満ちている目をしていて、言葉にならなかった。
セリフのない映画が生んだ美しさ。
それは私たちの目を輝かせてくれるだろう。
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