レインウォッチャー

サイコ・ゴアマンのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

サイコ・ゴアマン(2020年製作の映画)
4.0
えっ待ってチェイサーくらいのつもりが高純度の迷冥名作。すこ。ザバスからついに《不謹慎味》のプロテインが出たんか?

ある兄妹が庭から掘り当てたのは宇宙を滅ぼす超パワーを持った残虐魔人、しかし彼はノリ一発で『サイコ・ゴアマン略してPG』と名付けられ、斯くして地球と銀河の命運はイカれた少女ミミの手に握られることと相成った…

これは要するに『E.T.』で『アラジン』か『ターミネーター2』、もしかして『ドラえもん』。少年少女が超常的な力をもった何かと出会い交流する話だ。
自然と物語はカルチャーギャップコメディの様相を帯びつつ、正攻法でいけばその「何か」は子供が日々足りないと感じている力や夢の象徴となり、相互に助け合いながら最後には子供の自立と成長を促す存在になっていく。

当然、我らがPGもやがては人間の愛(ラブ)を知ることを通して、破壊だけではなく優しさのために力を使うことを学び、子供たちもひとまわり大きく成長…

…しねぇんだなあコレが!

なんか宇宙からPGを狙う刺客が現れたりとか何とか色々あるのだけれど、登場人物たちは結局誰も何にも変わってないことに気づく。
ミミはずっと怒れるクソガキだし、お兄ちゃんのルークはやっぱりミミに勝てないし、親父はクズ。気になる男のコも、ミミの勝手で【自主規制】にされたまんま。肝心のPGも、おや変わったのかな…?と思いきやそんなことはなかったぜなのである。絶妙に誰の会話も噛み合ってなくて、大事なことを言ってる風で何も解決しておらず、「おまえら人の話きいてます?」てなる。

しかし、きっと「そんなもん」なのだ。
宇宙を滅ぼせるくらいの力を手に入れようと、周りで人間や宇宙人がゴアゴアに殺されようと、ミミ=現代の子供の世界は目に見える範囲、カスタマイズされたTOP画面の中に閉じていて、とっくに絶対の神様はおらず、そのうえで日常は続いていく。

世界とあたしらは関係ない、今日もそこそこに楽しかったから、あとは勝手にやっといて、Bye〜〜〜。
ここに因果応報や勧善懲悪の法則は通用しない。このスピンアウトした感じは脚本として滅茶苦茶に見えて意外と現代的で理に適っているのかもしれないし、藤本タツキ(『チェンソーマン』※1)が推してたのも納得する。

あともちろん、何よりの魅力は特撮愛溢れるヴィジュアル。そう、今作はB級とかSFとか言う前にニチアサなのである。特にPGの元部下の宇宙人5人衆、全員かわいすぎる。ねんどろいどにしてくれ。
PG含めクリーチャーたちはどれもがスーツやパペットであり、そのアナログなものづくりはギレルモ・デル・トロ(※2)やテリー・ギリアムの系譜にきっと並ぶべきものだ。

うーん、近いうち日本とがっつりコラボして何か大きくやらかしてくれないかしら。
ちょうど、昨今の多様性疲れ然りアカデミー賞の快挙然り、西でのジャパンカルチャーへの注目度は再燃中だと思うので、良い風が吹いているんじゃあないかと思う。クールジャパンはもう古い、次はサイコゴア・ジャパンでよろだよ。

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※1:第二部に出てくる《脊髄剣》の元ネタってもしやこの映画?

※2:ていうか今作の作り手は『パシフィック・リム』に参加してたりもしたそうなので、むしろ直系か。