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VIDEOPHOBIAの消費者のレビュー・感想・評価

VIDEOPHOBIA(2019年製作の映画)
3.7
・ジャンル
サイコロジカルスリラー

・あらすじ
役者の夢に敗れ故郷鶴橋の実家に出戻りしてきた在日コリアンの愛はバイト暮らしをしながら劇団で改めて芝居を学ぶ日々を過ごしていた
そしてある日、劇団仲間と行ったクラブで彼女はナンパされ男と一夜の関係を持つ
それから間も無く事件は起こる
何気なく見たエロサイトに自分と男の動画が投稿されていたのだ
男の部屋を訪ねるも言い出せず、家族はおろか友人にも相談出来ぬまま複雑な心中で日常を送る愛
そんな彼女を追い詰める様に新たに上げられる2本の動画
我慢の限界を迎え男の家に再び訪れるもそこに彼の姿はない
たまらず警察に駆け込むが対応は冷たい物で自助会に参加しても心は晴れない
苦悩の最中、更に彼女には男から監視を告げる電話が掛かり恐怖から愛はある決断を下すが…

・感想
大阪のコリアタウン生野区鶴橋を舞台に在日コリアンの女性が行きずりの男に自分との動画をネット上に上げられてしまい心が蝕まれていく姿をモノクロで淡々と描いたスリラー作品
作品と同名の主題歌には自身も在日コリアンで生野区出身のラッパーJin Doggも参加している

過激な描写は全く無く抑制されたモノクロの映像を通して誰にも言えない孤独な苦しみを描いた世界観は嫌いじゃない
実際、無許可の盗撮動画投稿やリベンジポルノに限らず性被害というのは相談する事も事件の立証も難しい
静かに1人ジワジワと追い詰められ蝕まれていく主人公、愛が処女性とは無縁のどこにでもいる女性である事もその生々しさを高めていた
警察に駆け込めばまともに信じてもらえず通名でなく韓国名で呼ばれ、自助会の参加者にも疑われる
どこまでもドライで冷たい社会に異物の様にポツンと佇む愛の姿がまた切ない…

8mmカメラ、スマホ、着ぐるみ、フクロウなど示唆と比喩を多用し説明を極端に排除した展開も重たくて印象的
愛のする決断も性加害者に蝕まれた自分から解き放たれる為の決断であると共に在日コリアンという身分からの脱却でもあり苦しい
そして様々な解釈が出来るラスト
姿と身分を変えても過去を忘れる事は出来ないという事なのか
あるいは夫の正体が男と勘付いたのか
どう捉えても辛い結末にダメ押しの様にリンクする主題歌の歌詞が面白い

ただ全編通してエモやアート志向が若干くどい部分も否めず、それが原因で台詞も少なくわざとらしい演技でもないのに妙な舞台臭さを感じたのは少し惜しい
主人公、愛が役者志望という事に重ねて社会に求められる“無害”な役に押し込められているという事の表現なのかもしれないけどそれならもう少し別の方法があった様に思う

とはいえ主演、廣田朋菜の年齢不詳な容姿とアンニュイな空気感は作品や役柄に見事にマッチしていて大きな展開が少ない中でも不思議と惹き込まれたし映像作品としては好き
劇伴にインストのトラップを多用し不気味に響かせていたのも現代社会の闇を表現する手法として巧かった
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