テロメア

スカイ・クロラ The Sky Crawlersのテロメアのレビュー・感想・評価

5.0
当時、僕はまだ若者であって、今作は押井守監督が若者に向けて作る宣言をして作られたが、初見時には全然響かなかった。映画としてはちゃんとまとまっていて、空戦シーンは迫力があるのに、どうしてかずっと靄がかかったように良さが理解できなかった。それから十数年、ようやく良さを理解した。そしてこれは単なる若者向けだけではないということも。

今の年齢になって、ようやく響きました。もしかしたら、当時は映画の教養が足りなかったのかも知れませんが、それでもこの『スカイ・クロラ』の流れる時間は、アート映画とか文芸映画と言われる系統で、はっきり言って単なる若者向けではない。でも、若者でもタルコフスキーが好きなら、好みの時間が流れているのでとてもお勧めできます。

ゆったりとした時間が流れる映画の良さは、三十代を越えた辺りから僕も心地良くなってきました。もしかしたら、当時の押井守監督は六十手前なので三十代も若者だったのかも知れません。少なくとも、どんどんと映画の展開が早まる昨今で、普段映画を嗜まない人は、余計にこの速度は退屈だろうと思う。心理学的にも分子細胞学的にも、他にもいろいろな理論上、若ければ若いほど時間を感じる速度が遅く感じるので、そうしたものが落ち着く年齢になってからの方が楽しめる系の映画ですね。昔の自分はイマイチでしたが、今の自分はオールタイムベストの『イノセンス』に最も近づいた評価になりました。

それで最近の押井守著書で、今作のディレクターズ・カット版を作っていいとの約束がされていたけれど、なされていないそう。今作をさらに文芸映画として空戦シーンを全カットしてまとめる方針だったとか。今作にタルコフスキー的な雰囲気を感じ、それを良いと思った人たちなら大歓迎でしょうが普通は、何を言うんだ、となるんだろうなぁ、と。しかし、是非とも実現してほしい。ディレクターズ・カット版、出たら絶対買います!

そして構想として『スカイ・クロラ2』もあったそうで、中盤あたりに出た空母がメインで、空母を運営している戦争企業が舞台にして艦載機の世界を描くつもりだったそう。これが実現していれば、パト2やイノセンス的なものが出来ていたのでは、と。今からでも描いてほしい。しかし、『スカイ・クロラ』は想定より稼げなかったらしく、続編を作るとなると興行的な判断としては難しいらしい。けど、これってターゲット層への宣伝が間違っていたのでは、と思う。

若者に向けて、というのは確かに合っているが、文学で言うなら純文学のような映画です、と前もって言っていたなら、もっとその映画の空気や時間を感じ取ろうと観たはず。既に押井守ファンである以外の人たちに響かせるのなら、特に若者に向けるなら背伸びしてでも観てほしいと宣伝した方がよかったのでは、と。映画には教養や訓練が必要で、それがあって初めて分かる映画もたくさんある。そうしたことを宣伝にも盛り込んでおけば、チャレンジ精神旺盛な人たちが来たろうにと思う。そうしたことは作り手が言うことではないとインタビュー言っているけれど、あえて言えば挑戦者は増えると思うのですが、どうだろうか。

初見には響かなかった映画が、年齢を重ねると響くようになる。その体験ができた時、自分の成長が感じられるのが素直に嬉しい。今作はそういう映画なのだと分かり、先日は最高の映画体験でした。
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