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100日間生きたワニの都部のレビュー・感想・評価

100日間生きたワニ(2021年製作の映画)
2.3
作品の余韻を食い物とする完結後の商業展開の速さを受けて公開前から散々な酷評を受けていた本作。
蓋を開けてみると最低限の作品としての纏まりは感じるそれで、前半のワニ事故死RTA的な語りは30分にも満たない尺の割に映画としては空虚さを感じる代物でしたが、その後を描いたオリジナル要素が中心となる後半は原作から一歩進んだ命題を描くことに成功しているように思います。

前半──100日間の原作エピソードの中から。主にワニの恋愛事情とやりたかったことを抽出した構成となっていて、この前半部分ははっきり言って退屈です。語彙の数が少なく知性を感じさせない大学生の中身のない遣り取りが現実感を演出していますが、それは演出しているだけで作品の面白味に繋がるアプローチはまるで成されていません。等身大の若者の生活と言えば聞こえは良いですが、癪に障るタイプの内輪ノリの軽薄さが見え隠れする姿は現実的なだけで快いものではなく、またドラマとしては月並みです。各場面が著しく画としての魅力に欠けるのも、作品をより安価な物に見せている要因として大きいですかね。

また4コマならオチを迎えれば掛け合いを打ち切ることが出来るのですが映像となるとそうはいかず、小ボケ的な絡みを終えた後に生じる間がさながら滑ったような冷たい空気を生んでいて、内輪間溢れる会話の遣り取りにある理解の深い友人同士ならではの暖かみのようなものの再現性は低い。また60分足らずの本編に対して作中作の描写に尺を取りすぎだろという場面も散見されたのはあまりよくない印象を覚えました。

と前半の印象は散々なんですがワニの死亡の後日談を描く後半では、オリジナルキャラクター:カエルが良い役回りをしています。

前半部分の若者ノリを更に悪い意味で煮詰めた軽佻浮薄な性格の彼は、明らかにヘイトを集める無遠慮な振る舞いを遺された人々に行うのですが、その痛々しい姿形の見方が変化する内情は取って付けたようでありながら、的確にこの止まったドラマを一歩進める存在として配置されていて感心させられる。この意味のある『痛々しさ』に振り回される面々の鬱陶しそうな空気感は抜群でしたし、素性を知らない他人が知らず知らずの内にお互いをケアするというヒューマンドラマ的な語りは映画ならではで中々良かったです。

作品として褒められる部分は少ないですが、そうした後半のドラマ性の構築が酷評をかろうじて避ける要因となっていて、まあ悪くはなかったかなと納得することは出来る完成度でした。
良くはない。
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