つエ

護られなかった者たちへのつエのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
4.4
いろんな意味で今年、今のタイミングで観るべき映画

物語は2011年3月11日の東日本大震災発生直後から始まる、ある避難所で出会った孤独な老女・寡黙な青年・親を亡くした子供の3人が交流を深めていく様子を描くパートと、その9年後発生した、社会福祉関係者が監禁された上餓死させられるという連続殺人の謎を追うパート、2つの時間軸が並行して進むという構成
その狭間に生活保護という"最初で最後のセーフティネット"の問題が浮かび上がってくる

この2つのパートでは、トーンに明白な対照がつけられている
震災時パートでは、共に被災した者同士が身を寄せ合う姿が感情濃やかにウエットに描かれているのに対し、9年後パート、事件捜査の過程で描かれる保健福祉の現場では、厳格な制度運用によって本来は権利であるはずの保護の支給がドライに切り捨てられていく現実が明らかになる

前者のパートの基調にあるのは、渦巻く水の中で今にも溺れそうな隣人同士がなんとか助かりたい/助けたいという"自助・共助"の感情であり、後者のパートに明白なのは原理原則という乾き切った言葉の下でなすべき責務が果たされない"公助"の不作為である
このふたつの狭間で起きる事件が今作の肝になるのだが、その際にある登場人物が見せる、燃え上がるような怒りの表情が忘れ難い

主要キャストは言うに及ばず、ワンポイントの役どころにも篠原ゆき子、内田慈、岩松了、渡辺真起子、宇野祥平といった個人的に好きな役者さんたちが出ていて、顔触れだけでなく内容的にも豪華な出演陣
特に永山瑛太、あのキャラクターの複雑さがこの作品の奥行きを表しているようで、出番は少ないけれど印象的だった

今作が描いた、震災からの時間経過で露わになった日本社会の根っこにある不寛容・不人情というのは、コロナ禍の今まさに現在進行形で絶賛発揮されているところだ
そこをフィクションの形でしっかり突いたこの映画、今のタイミングでこそ観る価値があるのではないか
つエ

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