かなり悪いオヤジ

PIG ピッグのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
3.6
公開された当初、この映画をニコラス・ケイジ演じるロブにイエス・キリストを投影させた宗教的ヒューマン“グルメ”ドラマであると論じたレビューを何本か読んだ記憶があるのですが、今ググって見つけようとしても見つからなくなってしまったのはなぜなのでしょう。この映画をその年のベスト10にバラク・オバマがあげていた理由はおそらく、若き映画監督マイケル・サルノスキのその演出に気がついていたせいだと思われるのですが...

あんな乞食のような格好をした世捨人のどこがイエスなんだ?似ているのは長髪と髭面ぐらいのもんだろ?とおっしゃられるあなたにまず気づいてもらいたいのが、俳優ニコラス・ケイジとイエスの復活がロブの再生物語として語られている点なのです。ハリウッドで成功後、借金まみれで離婚再婚を繰り返していたケイジは、(この映画の出演がきっかけなのかはわかりませんが)近年借金を完済し演技派俳優として見事な復活を遂げているのです。

だって、アレックス・ウルフ演じるアミールが劇中ロブは仏教徒だって紹介してたじゃん?いえいえ、それはニコラス・ケイジ自身が創価学会系ブッディストであり、この映画の主人公ロブ・フェルドが俳優ニコラス・ケイジの分身でもあることを暗示しているのでしょう。映画のラスト近くでカーラジオのクラシック番組で語られていた「メロディ、ハーモニー、リズム」とは父と子と聖霊のみならず、ロブ=ケイジ=イエスの三位一体を指し示したダブル・ミーニングだと思われるのです。

右の頬をぶたれたら左の頬を差し出すロブは、顔面血だらけの聖痕をさらし、昔クビにした弟子はユダと同様イエスことロブを裏切っていて、かつての弟子たちをアミールに尋ねさせ料理の具材(パンと赤ワイン!)を調達するのです。そしてユダヤ人でもあったイエスことロブは、豚を食べてはいけない(豚を愛している?)のです。母親の自殺未遂をきっかけに親子関係が破綻していた神のような父親とその息子のために、ロブは特別料理=聖霊を用意して三位一体を成就させるのです。

つまり、意外にあっさりしていた天才シェフロブの料理よりも、こりにこったその裏演出に着目すべき1本なのです。