小学生の頃、通学路を少し迂回したところに、ある日忽然と大きな建物が出来た。看板にはホテル〇〇とある。がしかし、毎年夏休みに親が連れて行ってくれる熱海の観光ホテルとはずいぶんと佇まいが違った。
その入口には「ご休憩〇〇円、ご宿泊〇〇円」とあった。小学生の私はそれを見て、宿泊はホテルだから当然として、休憩？？？ ――その意味が分からなかった。漠然と「大人って、おカネを払ってまで休憩が必要なほど疲れるのか」と思い、大人は大変なんだなと少し暗い気分になったものだ。
さて大人になって、自分が利用する立場になっても「ご休憩」の違和感は消えなかった。それは、休憩というには程遠い行為に励んで疲労する場所だったからだ。
だが、この映画を観て、やはりあれは休憩だったのだと思えた。というのは、小学生の私が思った「大人は疲れる」は、あらためて考えると本当だったからだ。というか、大人の生活は疲れることの連続なのだ。仕事で疲れる。子供のことで疲れる。おカネや健康のことで疲れる。
そんな疲れることの多い人生において、ラブホは大人のオアシスなのだ。骨休みの場なのだ。劇中、このホテルローヤルを利用する中年夫婦の会話が何より印象的だ。
「お父さん、私またパートで５千円貯めて、ここに誘うわ」
「ああ、そうだな」
人生とはなんと疲れる所業なのか――。
