EnzoUkai

アフター・オール・ディーズ・イヤーズのEnzoUkaiのレビュー・感想・評価

4.1
福岡での特集上映でやっと見ることができたリムカーワイ監督作品。しかも長編第一作。日本での上映がほとんどなかったらしく、非常に貴重な体験になった。

流浪の映画監督として名を馳せてるリム監督。その所以がこれを見ればよく分かる。
難解であるのは否定できないが、処女作に溢れる才気は、実力者のもの。映画の名人たちの処女作に相通ずる出来栄えだった。
この作品を言葉で表すのはなかなか難しいのだけど、いわゆるオムニバス形式である。流行りの言葉で言えばメタバースものとも言えるし、構成そのものはパラレルで、2本のエピソードが場所と登場人物をを一にする。
ただ、このパラレル世界をどう横に繋ぐかが多少難しく、あまり線を描いていない。同じ場所で同じ人物が居ても、やってることや話の進み方は全く違う。我々観客は、その違和感にモゾモゾしながら見続けることになる。
それでも、ラストに不思議な説得力をもたらす上手い演出に脱帽する。
なんかジワーッと感動を覚えるのが見ていて憎いくらいだった。

旅する監督リムカーワイ。漂白者の実力とは、世界の切り取り方。ヴェンダースがテキサスの砂漠を撮ってもアメリカに見えないのと同じで、「異邦人の目」は私の大好物。この映画の舞台は北京らしいが、これがあまり北京っぽくない。退廃的で荒廃した未来のとある場所的な印象を受ける。またそれが非常にスタイリスティックで、王家衛の描く香港っぽくもある。
上映後のトークショーでも話題に上ったが、非常に巧妙なサウンドデザインが施されていて、異世界感を構築している。

今作以後、作風には変化があるそうだが、基本的にこの一本を是非押さえて貰いたい。今作以降は、少し分かりやすいフォームに変えていってるとのことだから、シネフィルにはこの作品を見て身震いして欲しい。
アシッドな毒気を浴びたい人は特に見るべし!
人生の苦味こそが最高の嗜好品。
EnzoUkai

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