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カポネのryo0587のレビュー・感想・評価

カポネ(2020年製作の映画)
3.0
まずトム・ハーディのカポネ像が凄い。黒目がやたらと大きく感じるのはメイク?土気色の肌は全く生気を感じさせない、生きる屍のよう。素晴らしいメイクの仕事。

やつれていく中で狂気を孕んでいき、何をしでかすかわからない静かな恐怖を掻き立てる。殆ど台詞もないのに惹きつけられてしまう凄み。地味なプロットを飽きさせず最後まで観れるモノにしている。

歴史上最も有名なギャングスターの晩年を描いた伝記かと思いきや、人生の終わりに際してそれまでの人生・自分のしてきた行いにどう折り合いをつけられるのか、そもそも悪人にそんな余地はあるのか、という普遍的なテーマが描かれる。
『アイリッシュマン』を連想した。。。

過去への地獄巡り、よぎる殺した仲間や隠し子への未練、周囲の人間への疑念とフラストレーション、そして最後に見出される少しの救済が、敢えて幻覚と現実の境目が曖昧になるような演出によりカポネの精神の分裂と混乱として効果的に映像に落とし込まれている。

こうした映像で説得力を持たせて語る話法は編集も兼ねた監督の巧さだろう。

栄華を誇った全盛期からは見る影もなく、経済的に苦しいなか病のせいでまともなことは満足に1人でできなくなり、脱糞に妻や息子から辟易され、取り巻きは信用できずに孤独。。。哀れという言葉さえ温い、人間の生々しい最期に、自分の身の振り方を考えてしまった(ギャング映画の振りをした介護映画という見方もできる)

最期をどのように迎えたいのか、迎えるべきなのか、自分の今の生き方は死ぬときに後悔ないのか?そんなことを考えてしまう苦い作品だった。

いわゆるギャング映画とは趣が全く違うが新鮮ならアプローチは好き
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