雄貴AUE

TITANE/チタンの雄貴AUEのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
3.5
同監督の『RAW〜少女の目覚め〜』がたいへん好みだったので以前から気になっており鑑賞。
フランス映画っぽい、暗い雰囲気の絵の綺麗さとか、あらゆるものを『メタファー』しているんだろうという雰囲気は感じたが、結論的に一言で言ってしまうと、なんか納得しきらない変なあと味の映画でした。

以下ネタバレしつつの私の解釈、考察。



前半は怒涛の展開。
カーとセックスする特殊性癖持ちの女が、何故か人を殺しまくる。急に何故か親も殺す。それはどうやら幼少期に頭にチタンを埋め込まれたせいらしいが、その関連はイマイチ不明。
まあ映画の冒頭の設定紹介シーンなんてそんなもんでも良いか、という気もするし、『車事故によってトラウマを負った少女が反動で車に欲情するようになり、人を愛せず車しか愛せない事で満たされない空虚感から人を殺してしまう』みたいな無理くりな繋がりを解釈してみて、とりあえず観進める。

中盤『父親と再会』してからの描写は、一転して嫌にネチネチと丁寧に描かれている。
父親は、目の前にいる人物が自分の息子ではないと薄々気付きながらも、10余年にわたる心の隙間を埋めるため、妄想的で支配的な狂った愛情を彼女に注ぐ。この辺特に気持ち悪い(褒めてる)。
一方の彼女は、明らかに無干渉気味で線の細いインテリな実の父親とは違い、老いに逆らいマッチョであり続けようとし昔ながらの『父親らしさ』を過剰に発揮する新・父親と暮らすうち、衝動的で破壊的なそれまでの彼女と違い、与えられた役割をこなそうとする『女性性』或いは『母性』のようなものを獲得し始める。それは、一度逃げ出そうとしながらも再び偽物の息子の生活を選んだことで決定的になる。
そう思うと、いやにネチネチと描かれている、彼女の腹の中で育っている『何か』は、そうして『女性らしさ』のメタファーという見方も出来る。いやきっかけは車とファックしたところからだしもしかしたら見当違いの解釈かもしれないけど、だってあんなぽんぽこのお腹をサラシ一枚で隠せるわけないじゃん?何にせよ、彼女の体から流れる血や母乳が全てカーオイルのように真っ黒だったりする、その不気味さ、得体の知れなさは、その中身のグロテスクさを表している気がする。
終盤に差し掛かるにつれ、父親も彼女も、もはや相手が誰だとかではなく、結果的に互いの役割でもって互いの空虚さを埋めあう関係となっていく。

そしてオチ。このラストシーンをどう解釈したら良いのか自分にはわからないのが、この映画を素直に「よかった!」と言えない最大の理由。。。
腹から何かが出てきた瞬間何が起きるのか、ドキドキしながら見ていたら、あ、結局普通にチタンベイビーが産まれるんだ?みたいな。この赤ん坊が産まれたことで、父親は恐らく引き続き(更に)歪な形で、自己の支配欲や寂しさや望む役割みたいなものを埋められるのだろう。もはや取り返しがつかない人間にとっての、一種の救いではある。では彼女にとってこの出産は何かの救いだったのか。女性性からの解放なのか、それとも完全に支配されてしまったのか。そもそも彼女は死んだのか。。。

とまあ色々と感じるとるものや解釈できることはあるんだけど、そもそも「チタン」を埋め込まれたことやカー(と)セックスしたことと、中盤以降のテーマの関連が自分には???ということもあって、なんかイマイチ腑に落ちない映画でした。
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