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TITANE/チタンの消費者のレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.8
・ジャンル
ボディホラー/官能/ドラマ

・あらすじ
幼少期の自動車事故により頭にチタンの埋め込まれた女性アレクシア
彼女は大人となった現在、ショーダンサーとして人気を博していた
そんな彼女がショーを終えたある晩、熱狂的なファンに強引にキスをされるとヘアピンで殺害してしまう
彼女の裏の顔は連続殺人犯だったのだ
返り血を落とす為、仕事場である車の展示場でシャワーを浴びるアレクシア
するとその場に残された一台の車が意思を持つかの様に彼女を誘惑し始め、それに応える様に車との情事に浸る
その後、徐々に膨れていく彼女の腹
それは車との間に子を身籠った事を意味していた
更に彼女は自宅に招いた同僚やその友人を殺害し証拠隠滅の為に放火、両親をも殺め指名手配の身に…
そして身を隠す為に一つの決断を下す
幼くして失踪した青年アドリアンに成り代わるという物だ
胸や腹をサラシで押し潰し彼の父で消防隊長のヴァンサンに引き取られるアレクシア
やがて彼女はアドリアンとして隊員となり息子への愛を受ける内、ヴァンサンに愛情を抱いていき…

・感想
ヴィーガンの少女がカニバリズムに目覚めるという衝撃的なホラー作品「RAW」を世に放った新進気鋭の女性監督ジュリア・デュクルノーが製作したボディホラー作品

自動車事故でチタンを埋め込まれた女性が車とセックスしその子を身籠る、しかもその女性は連続殺人犯で身を隠す為に性別を偽り失踪した少年になりすます
これだけを見るとかなりカオスで荒唐無稽な中、車や手術痕、膨れた腹や胸などを変えられない過去とそのカルマの象徴として扱う事でロジカルに解釈させるその世界観はあまりにも個性的で圧巻の一言
人と機械、異なる身元、性別、殺人と救助、父と子
複数の相反する2つの要素を超越する事で得た愛が最後には身を滅ぼすがそれが過去に囚われた人間に新たな歩みをもたらすという悲哀と慈愛が奇妙に絡み合った物語はもはや美しくさえあった

父ヴァンサンの台詞からキリスト教絡みの内容である事を示唆している事からアレクシアはマリアであり車との間の妊娠は処女受胎を意図しているだろう事が読み解けたり、“良心”という呼び名でいち早く彼女の正体に気付く隊員ライアンの死が偽装/抵抗の終わりを暗示していたりという伏線も難解過ぎず面白い

特に前者は性別の壁を超える事でヴァンサンへの愛を示してきたアレクシアが親子愛ではない愛情を露わにした上で本名を明かし目の前で出産するという形で女性として死ぬというのがありのままで良いのだ、と“神”としての父ヴァンサンに受け入れられていると読み解ける
神話の書き換えさながらのこの展開は過去としての保守的なキリスト教的道義のアップデートとアレクシアが新たな命をヴァンサンに託し息を引き取る事も重ねているんだろう

そうした終焉と新たな歩みに至るまでのアレクシアの苦悩や罪悪感をヴァンサンを含めた消防隊員達のマチズモやホモソーシャルという形で表現していたのも上手い
更に言えばヴァンサンは追いに抗い筋骨隆々とした体と力を維持しようとステロイドと思われる注射を度々していた
ステロイドは長期間使用を続けると副作用として異性のホルモンが増強されてしまうという話がある
つまりヴァンサンもまたステレオタイプな男性像を超越した存在として真の慈愛を提供する神へと変化していったとも解釈出来る

こうした考察を踏まえるとアレクシアの赤ん坊の親である車は文明の象徴であろう事から原始的な時代のキリスト教が生み出した思想は文明が進化し社会が変化したのだからそれに合わせ変わっていくべきだ、というメッセージ性もあったのかもしれない
加えてそこからは女性であるアレクシアが自らパートナーとして車や同性を選んでいた序盤の様子も男性主体の社会からの脱却という意図も感じ取れる
となると顔の変形やサラシによって体に出来ていった痣や傷などは名誉男性となる事で社会を生き抜こうとしていた女性の蓄積してきたダメージのメタファーだったんだろうな、と
そして加害性は名誉男性となる過程で身に付いてしまった習性にも見えて来る
つまりアレクシアの体はサナギとしての苦しみもがいて来た女性像であり赤子は脱皮した自由な女性像なのかもしれない
体が完全にチタン製ではなく入り混じった姿なのも巧い

画力や官能表現、痛々しい描写などが目立つ作品ではあるがそれだけで終わらせられない濃密で解釈のし甲斐がある名作
「RAW」も同様だけれど抑圧と解放をここまで興味深い表現に昇華出来る監督の発想力がとにかく凄まじいし素晴らしかった
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