MasaichiYaguchi

ハウス・イン・ザ・フィールズのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
アフリカ北西部に広大に走るアトラス山脈の一部、モロッコの高アトラス南西地域に住むアマズィーク人姉妹の四季を壮大な自然の中で捉えたドキュメンタリーを観ていると、良い意味でも悪い意味でも昔の日本を観ているような錯覚に囚われる。
本作で取り上げているモロッコを舞台にした洋画というと、「カサブランカ」「知りすぎていた男」「アラビアのロレンス」「インセプション」と枚挙に暇がない。
だが、本作はこれらの作品とはまるで趣が異なる。
幕開けから異国情緒たっぷりなのだが、アマズィークの人々は信心深く、伝統を重んじ、自然の恩恵を受けての暮らしぶりが、今では薄れたり、失われてしまったりしているが、古来からの日本の文化や風習と共通するものを感じさせる。
秋から始まり夏で閉じられる本作だが、登場する姉妹の姉のファーティマの結婚を巡り、妹のハディージャの複雑な心境を繊細に紡いでいく。
モロッコは男女同権、婚姻年齢の引き上げ、女性からの離婚請求可能等、法律が改正され、社会が大きく変化する最中にあるが、モロッコの山奥に暮らすファーティマとハディージャには、その社会の変化の波は訪れていない。
映し出されるアマズィークの人々の畑仕事を見ていても昔ながらの手作業で全く機械化されていない。
そもそも日常においても殆ど電化製品が登場せず、調理や洗濯という家事全般も昔ながらだ。
だから本作を観ていると、これは現代なのかと一瞬疑いたくなってくる。
だが、こんな環境下でも少しずつ変化は訪れている。
それを象徴するのが本編での「知ってる?男女は同等に働く権利があるの。何だってできる」というハディージャの言葉。
それでも姉のファーティマは親同士が決めた、よく知らない男に嫁いでいく。
このファーティマの村を挙げての結婚式が本作の最大の見せ場だと思うが、宴の後、残されたハディージャの切ない思いが余韻を残します。