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Next Stop Paradise(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

Next Stop Paradise(英題)(1998年製作の映画)
4.7
【盗んだ戦車で走り出す、行き先も解らぬまま】
済藤鉄腸さんの東欧映画スペースでルチアン・ピンティリエが盛り上がってきたので私も挑戦することにしました。ルチアン・ピンティリエといえば1992年のカイエ・デュ・シネマベスト10で『Balanţa(The Oak)』が選出されたイメージが強い。今回は、第55回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別大賞を受賞した傑作『Terminus paradis』について紹介していく。

平凡なブカレスト郊外。橋の上をゆっくり自転車の男が走っていると、橋の下から勢いよく男が駆け抜けていく。そして川にドボンと飛び込む。何かから逃げているようだ。すると、橋の影から軍人が現れ、作戦が開始となる。空中からはヘリコプターがターゲットを狙撃しようとしている。草むらに隠れる男。軍人の激しい銃撃戦。血みどろな戦闘の末に、決着がつく。橋の上という安全圏にカメラを向けると、先程まで一人しかいなかった空間に無数の野次馬が詰め掛けており声援を送っている。命の奪い合いが行われているにもかかわらず、あまりに呑気でゲスな姿に唖然となる。この当事者/傍観者の構図が戦争だと言わんばかりの強烈なオープニングにノックアウトされる。

物語はそこからボーイ・ミーツ・ガールへと発展していく。カフェでのナンパ、意気投合から泥酔状態となった男女はアパートに転がり込み、自堕落な生活を送る。人間をやめたような生活、頭から血を流し、貧相な生活を送る二人のもとに次々と愉快な仲間がやってくる。そして行き場のない生活に対してモヤモヤを募らせていく。少年は、勢いに任せてベランダからモノを落とし、車のフロントガラスを粉砕する。そして開き直る。行き場のない者は狂ったように踊って現実逃避するしかないのだろうか?

行き場のない青年ミトゥに待っていたのは兵役だ。

規則に縛られたくない彼は盗んだ戦車で走り出す。そして、カフェの裏側から突撃粉砕する。そして、「私、キキ!こっちは黒猫のジジ!」と言いたげに、子猫を抱えて戦車から現れるのだ。

本作は、理想郷を求めて、それでも闇に引きずり込まれてしまった者たちのもがきを描いた傑作だ。『Balanţa』もそうだが、ルチアン・ピンティリエは複数のジャンルをシームレスに切り替えることで、閉塞感をダイナミックに描いている映画監督である。日本ではあまり知られていない監督ですが、近年のルーマニア映画の注目に併せて配信または上映してほしいなと思う。
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