ねぎおSTOPWAR

ヤクザと家族 The FamilyのねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
3.1
「すばらしき世界」と同時期の公開だったんですよね。そして同様にヤクザが出てくるのでそこが話題になっていました。「すばらしき世界」は劇場で観ましたが、こちらはようやくNetflixで。

どちらもヤクザと一般社会との軋轢が描かれるし、主人公が出所後にカタギの女性を訪ねるという設定も・・。
確かに比較して面白いなと思いましたが、似て非なる物ですね。
「すばらしき世界」は隠し味も効いた薄味だけど深い京料理。
「ヤクザと家族」はソースとマヨネーズの大衆料理。ある種韓国映画っぽいところも!笑
儀式なんかも結構取材したんだろうなって。リアリティ感じました。
良い悪いじゃなくて味の好みかとも思いますけど、今作はなんか非常にもったいないなあと感じています。

批判したいわけじゃなくて、ただ観ていて引っかかった・・というか気になった点を以下書きますね。自分ではいまひとつ判断できない部分もあるのが正直なところ。もし「イチャモンだ」と思われたらご指摘いただけると幸いです。書き直します。

ということで部分的に中身に触れますので観ていない方はご注意いただければ。










冒頭のシーンから「あれっ?」と思いました。でも然程ではありませんが・・。
海沿いの道が見えるいい風景。
そこを遠くから原チャリがブーーーーッとやってきます。
実は映画を通してこれがとても象徴的なんですけど、この映画はモロに”それ”を撮るんです。
カメラは最初から原チャリを目的に撮影しています。
「007スペクター」の冒頭のショットは、そうと思わせておいて「えっ別人!?」という面白さがありました。ほかオーソドックスなものだと、結構な割合で別の人なり車なりが逆方向に走ってフレームアウトするとか、視線を誘導すると思います。もしくはカメラは固定で原チャリがフレームアウトするとか・・。
この役者さんを中心に撮影するのって日本のテレビ的な感覚だと思います。良い悪いではなく、このショットで「すばらしき世界」とはあー違うなあと感じた次第。


これすっごく強く思うところです。
「すばらしき世界」になくてこちらにあるとても面白い要素は、オヤジとアニキと自分と市原君とツバサの対比なんだと思うんですよ。
特に、かつてあの加藤のとこの若頭を殺すところ、銃で殺しに行ったらアニキが横から出てきて刺し殺しました。
そこと最後にツバサが仕掛けることを察したケン坊が行くところ。
これ相似形ですよね。
ツバサは過去の自分であって、オモニに辛い思いさせるわけいかないし、だから自分が行く。その動機は違っても、自分の可愛い後輩を庇おうとする対比が面白いって。
・・・でもこの映画にはアニキ中村:北村さんの描写が少ない。撮ったんでしょうね、きっと。でも編集で切ったのかなって・・。良くも悪くも『綾野剛くんの映画』にしたんじゃないかな。
だからオヤジの思いと、そこから来るアニキの嫉妬と、でも愚直に守るとこと・・そこがヒントくらいないとなぜアニキが刺しに来たのかがわかりづらい。対比にならない。
プラス・・
最後加藤と刑事を襲撃するところ、まず金属バット持ったケン坊の後ろ姿見せてからツバサたちの画を見せています。すごくネタバレ的で説明的な編集になっています。
わたしが「こうだったら良かったんじゃないか」って思うのは・・
オモニの店でツバサをハグするシーン(思わせぶりでしたよね)からケン坊をいったん消して、ツバサが加藤たちをいよいよ襲撃する計画を電話で話す
・・それを耳にしてしまうオモニ。で、止めようとする。振り払うツバサ。
・・加藤が待つあの店にこそこそ周囲を伺いながら刑事が入ってくる
・・実際使われた、ツバサたちが道を闊歩する画
・・あの店の部屋で会う加藤と刑事(扉はチラッと見せておく)
・・その扉に向かう人物の足のローアングルアップでドリー
・・みんなツバサが来た!と思ってる・・
・・扉バーン やや「はぁはぁ」息する(急いで抜いて走ってきた)ケン坊!
で、ツバサたちは既に警察来てからじゃなくて、襲撃直後にやってきて、かつてのケン坊と同じこと言わす。でもケン坊は聞かずにツバサたちを守る・・・。
ベタっちゃベタだから、同じセリフはやり過ぎかもしれませんが。


今度は似たようなシーンのこと。
出所したケン坊が彼女(尾野さん)を訪ねたシーン。
いきなり「わたしたち・・」って言っちゃうでしょ。笑
で、「娘」「何歳」「14」って。
そこまで言っておいて「違うわよ!」んで「父親がヤクザなんて言えないじゃない!」
みなさんどう感じましたか?
脚本と芝居の方向は一致していたのか・・ユカの設定。彼女は最初からヤクザを受け入れず、たいして共感もしていない。これがどこから共感に移行したのか(たぶん「家族なんていない」という明け方海辺での会話から?)、彼女はメンタル強いのか、弱いところもあるのか・・。
わたしが思っていた彼女は、ひたすらに隠そうとすると思いました。つい「わたしたち・・」って口走ったとしても、すぐに気づいて煙に巻こうとするんじゃないかって。だからこの「14」ってすぐ言っちゃうのが「おいおい!」って感じでした。
「すばらしき世界」では・・
役所さんが訪問すると彼女は留守で、子供と思われる女の子がやってきて、年齢のやり取りになったでしょ。でも「〇歳」じゃなくて「小3」・・で、指折り数える動きをチラッと見せてからちょっとがっかりする三上なわけですよ。
つまり言いたいのは、「自分の子供かも」って思うところを、とても直接的にわかりやすい味で作ったものと、自然を装ってちょっと隠した味の差があると思うんです。
良い悪いじゃなくて、だから今作は濃い味のテレビ的だなって。


もったいないなって思った設定が「オモニ食堂」。
苗字が木村さんでオモニなんだから、おそらくは加藤に殺害された木村さん(寺島しのぶさんの旦那)は在日のヤクザなのかなって。
ここで本家との因果関係については描写がないので(原作には何かあるのかなあ)想像になっちゃいますが、在日への差別がそこにあったりするかなって。
息子がツバサだからわからないけど・・オモニならではの息子への思いも寺島しのぶさんだけに、複雑な心情も見事に演じるスキルがあるんだから、もうちょっとシーンが足されても良かった気がします。


キャスティングについて
返す返すもピエール瀧さんの不在が痛い。
おそらく皆さん、最も悪いやつ!って言うと刑事って言うんじゃないかと。
岩松了さんが巧いんですよねえ。
わっるい奴に見える。
舘ひろしさんと豊原功補さんのところがなあ・・このお二人いい人に見える。笑
舘さんの設定はそういうオヤジだから。
そこで上手な北村さん。
ゆえにもっと北村さんのシーン増やしたら、上にも書いたように中村アニキの心情がもっと描かれたのになって・・それは贅沢?
だって綾野くんと殴り合うところ良かったでしょ。いいシーン。・・でもそのあとシャブ打つところがあまりに唐突で、「えっなんで?」って。その後もないからもったいないなあって。


最後に撮影と編集について
「新聞記者」観て、なんか撮影に「???」な印象を持ったんですが、それが監督に起因するのか技術スタッフによるものなのかはわからなかった。
で今回、「あぁ監督なんだな」って思いました。
カメラさん「志乃ちゃん・・」では違う画です。
「新聞記者」にもありましたけど、<俯瞰ショット>好きですよね。
で、この方使い過ぎますよね。
さらに室内の俯瞰から路地の俯瞰ショットに繋いだとこ一か所ありました。
それがセンスだと言われればそうなのかもしれません。
わたしは変だと思いました。あざといと思います。
また、テレビ的だなって思ったのは・・
彼女との最初の明け方海辺のシーンも、もっと風景生かした画が撮れたんじゃないかなと。全体を考えると、監督もスタッフも二人の表情にフォーカスしていたのかなと思います。あるいは限られた時間(夜が明けてしまう!)でお芝居しか撮れなかった可能性。



通常映画観る際、ストーリーに重きが置かれるので、綾野剛演じる山本に寄り添う。加藤と決裂した後バイクから銃撃されたあと、ふり向いて仲間が撃たれたことに気づき、涙が溢れるシーンなんて綾野くんすっごく良かったですよね。なんだかスワンの時より成長した気がします。
だからこれは良いってなるのわかります。
・・でもせっかくスタッフが1ショットごと精魂込めて撮っていると思うので、そこを楽しむのも映画かと。
それで言うと、脚本の作り込みと撮影が、おそらくコンパクトに行われた今作はテレビドラマ的で、「すばらしき世界」は手間をかけて作られた印象。何度も繰り返しますが、良い悪いではなく、わたしは隠し味が効いた料理が好きだなって。