匿名ひつじ

ヤクザと家族 The Familyの匿名ひつじのネタバレレビュー・内容・結末

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

主題歌のFamiliaをずっと聴いていてたので覚悟はしていたが、それ以上に悲しい結末だった。

家族を失って拾われたヤクザ。全盛期の時を生きてきたからこそ、獄中を経て浦島太郎状態の賢治がどんどん追い込まれていく様子が辛い。

賢治が悪い訳ではないのに(勿論ヤクザとして悪いことをしてお金を稼いできている訳だが)、自分の存在が愛する人を傷つけ、苦しめているという現実。親父の言う通りにやり直して、全てを投げ出して家族を大事にすると決めたのに、それが叶わない。ただ、ヤクザだったというだけで。  

由香が賢治に出て行けというシーン。どちらの気持ちもわかるから、一瞬でも3人で幸せな時間を過ごしたからこそ辛い。危篤の親父から「家族を大事にしろ」と言われ、それができなかったと伝えられない賢治の表情が尚辛い。

賢治の由香への独白と共に、登場人物それぞれが、ヤクザという組織の在り方と、変わりゆく時代に翻弄され、もがき苦しんでいるのがひしひしと伝わる。実際にこの苦しみを味わった人達がいたのだろうか。綾野剛は声だけでも素晴らしい演技をする。

特に綾野剛の演技に注目して観ていたが、言わずもがな、本当に素晴らしかった。まず年齢が全く異なるのを、本当にその年齢に見せてくるから驚く。最初の金髪の時は本当に10代に見えるし、そこから中堅ヤクザ、そして服役を経て丸くなった40歳手前のやや疲れた表情。どんな役作りをしているのか。

数え上げればキリがないが、印象的だったのは、大原が殺されたワンカットでのシーン。綾野剛の表情を見るだけで何が起きたのかが分かり、弟分を殺された怒りと悲しみと、現実を受け入れられない混乱が全て表現されている。
そして何といってもラストの細野への眼差し。絶望の中、最も信頼し、可愛がっていた弟分に刺され、死を覚悟してもなお、彼に愛情を向けたその表情。目。恐ろしい役者だ。

綾野剛に加えて、磯村勇斗の演技も印象的だった。現代っ子らしいチンピラをきっちり演じ好印象、くらいに思っていたのに、ラストの表情と涙に思わずもらい泣きをした。かなり持って行かれた。

そして主題歌。ずっと好きな曲だったけれど、映画とマッチしすぎて(言うまでもなく常田大希は常に作品ありきで主題歌を作っている)、歌詞をじっくり聴きながら賢治に想いを馳せ、じっくり余韻に浸ることで、再度この作品を噛みしめることができる。

他にも、時代ごとの映像の質感を変えていたり、演出の仕方やカメラワークがよかったりと、総合的に素晴らしい作品だった。脇を固める役者も素晴らしく、ストーリーに集中して観られた。現代版のリアルなヤクザ映画。というより1人のヤクザの人生を描いた人生映画だった。