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あのこは貴族のtoruのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
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貧困で苦しむ門脇麦の前で、
水原希子が「どう、明るくなったでしょう?」と札束に火を灯す映画。

キャストとあらすじだけで勝手にそんなイメージを描いてしまい、申し訳ありませんでした。
(でも役、いつもなら逆じゃない?)

東京出身・富裕層の門脇麦が、地方出身の水原希子にマウント取りまくる映画かと思いきや、二人とも階級や格差に苦しみ、そこから抜け出すまでが描かれている。

門脇麦が高良健吾と出会ったその日からずっと暗い雨の描写が続くように、晴れない心とともに暮らす。
育ちや血筋など、先天性のもので判断し続ける人の行列は、見ていて良い気はしない。なんだか時代劇を見ているようだ。
一方で水原希子は富山出身で大学進学を機に上京。猛勉強が報われた上京だったが、その後、退学を強いられる苦労人。
「本当に同じ東京の住人なのか?」と思わせる、対照的な登場人物たち。
個人的には門脇麦の上品でありつつも憂いをずっと抱えたような演技が刺さった。そう

地方の県の中でもビリを争うほどのエリアで生まれ、高校進学で富裕層が多く集う学校に進んだ身としては、共感の連続で。劇中であったように、ナチュラルに価値観が違うんだよなぁ…。
そういえば格差モノといえば「花束みたいな恋をした」も、主人公の設定は地方出身一般層×東京出身富裕層だったな。
人としては好きなのに「育ちの差から生じる価値観」という壁に阻まれる点も共通だ。

最近の話題作に格差が含まれていることは、日本でも格差を感じる人が増えてきた証拠なのかな。「一億総中流」の時代であれば、これらの映画がヒットしなかったかもしれない。

ところで。
セリフの一つに「人生をトレースするだけ」といったものがあった。育ちや血筋を守る富裕層を揶揄する意図のセリフだろう。

劇中ではベランダでビールを飲む高良健吾で、人生をトレースする苦しみが少し描かれていたが、もう少し深堀りしてほしかった。

自分の周囲の話になるが、同級生に医者の親を持つ友人が多かった。
親族やきょうだいも含め、全員医者という境遇も少なくない彼ら彼女らは、生まれながらして「医者にならなければならない」という宿命を持っていた。
子どもだった当時の自分は「将来のビジョンがハッキリしていてすごい」と浅い感想を持つだけだった。

ただ、今思えば、その家系に生まれたために、敷かれたレールを守らなければいけない苦しみもあっただろう。
幸一郎も、他の職業にもなりたかったのではないか。別の人生を歩んでみたかったのではないか。
そういった意味で、幸一郎の苦悩ももう少し見てみたかった。

もうひとつ。
貴族と対照的に描かれていた水原希子、彼女も世間一般から見れば貴族なのではないか?

もちろん、劇中では育ちが良くないように描かれていたが、慶應に入り、その後クラブのグレードを上げ続け、東京タワーが窓から見え銀座を自転車で移動する生活圏を持つ彼女もまた、貴族なのではないか?

本当の格差を描くためにも、幸一郎の祖父vs美紀の弟のW主演でスピンオフするべきではないか、山内マリコ先生。
……と思ったが絶対にB級映画になりそうなので、このままでいいのかもしれない。

ちなみに、
感動的なシーンのひとつである、美紀とリエが銀座を2ケツで楽しそうに自転車で走る姿。すごく良かったですね。
映画で見た感動的シーンをもう一度見たい、レンタルまで待てない、という人はロケ地・銀座から15分ほどで行ける蒲田へどうぞ。

本当に驚くぐらいの人数の2ケツを楽しむ人々を見ることができる。
その中に、現実世界の美紀とリエがいる……かもしれない。
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