マインド亀

あのこは貴族のマインド亀のレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.5
●ずーっと見たかった作品をお正月の機会にようやく鑑賞。奇しくも冒頭、榛原華子(門脇麦)の家族での元旦の会食シーンから始まります。

●イメージビジュアルが門脇麦と水原希子が二人で並んでいる画像だったので、てっきり身分の違う二人がガッツリバディになって共闘する映画と思っておりました。実はそこまで二人が接触するシーンは多くなくて、共闘は愚か、ヒステリックにいがみ合うシーンもありません。一昔場合なら女性同士の一人の男を取り合うキャットファイト的バトルは必ずあったと思うのですが、そういった男性からみた「女ってこうだよね」というテンプレ表現がなくて好感が持てます。二人の主役がそれぞれ女性のバディを組んでますし、女性たちが立場は違えど、男のクソ行動、しいては男社会への冷めた視線、いやむしろ男への幻想を断ち切り独り立ちしていくさまはとても清々しい気持ちになります。

●対して男側も、社会階層や家系の抑圧、固定された将来や人生の選択肢の無さなど、それはそれで牢獄のようなものから動けない悲しみが描かれており、一方的に弾圧の対象ではないところも良いと思います。

●その後の子孫まで維持していくことのみが目的となった人生を選ばなきゃいけない、上級階層維持システムの異常性を感じました。対して貧乏人はどうやっても負のサイクルから抜け出せず、それもそういったサスティナブルな貧乏維持システムを知らぬ間に構築させられている結果なんだと思ってしまいました。もうだんだんとつらくなりますよね。世界的にもこういった社会問題は顕在化しているのでしょうか。パラサイトもそういう映画ですよね。一度こういうシステムをデストロイしてほしいと思ってしまいました。

●キャスティングも本当に良かったです。特に門脇麦の無垢なる箱入りお嬢様感。本当にいそうな存在感。ただ立っているだけでお嬢様というのがわかる。どこか虚ろで美しい目線や、街なかの暗い部分は目の中に入らない感じ。それが後半になるに従って目の力が変わっていくというか。水原希子も本人はスーパーモデルなわけですが、今作ではちゃんと地方の庶民的な女性に見えます。庶民的とはいえどスーパー努力型で成り上がっていき、美人でスタイルも良いのに、東京ではそれだけでどうしようもない格差があるのだと心折れてしまうさまが非常に上手でした。

●前述した通り主人公二人は、ちょっとした会話をかわすだけです。何気ない会話が自分の人生を変えること、人生ってそういうことありますよね。この映画の肝はそこだと思いました。だから腐らずに、色んな人のことばに耳を傾ける…そういった一年にしたいと正月に思うのでした。
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