SANKOU

イングリッシュ・ペイシェントのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

第二次世界大戦終戦間近の1944年、全身火傷を負い、記憶も顔も名前も失った男が野戦病院に運び込まれる。
時を同じく戦争によって婚約者を失い、目の前で親友も亡くしてしまった看護師のハナ。「大切な人は全部なくしてしまう」彼女と火傷を負った患者の奇妙な廃墟での生活が始まる。
やがて少しずつ語られる患者の過去。彼の正体はアルマシーと名乗る地図の作成をする冒険家の男。
彼はエジプトの勤務地でキャサリンという名の人妻に禁断の恋をしてしまった。
砂漠で砂嵐に閉じ込められ、恐ろしい一夜を共にしてから徐々にお互いの心を知った二人が、貪るように愛欲に溺れていく姿が、決して許されない恋だけに破滅的で、どこまでも燃え尽きていく様がエロチックだった。
実在する泳ぐ人達の姿が描かれた壁画、どこまでも砂だらけの砂漠の描写がとても神秘的で美しかった。
アルマシーの記憶が語られると共に、現実の世界ではカラバッジョという謎のカナダ人の男が現れたり、キップというインド人の将校とハナとの間に恋が芽生えたりと物語は進展していく。
カラバッジョが実はアルマシーに恨みを抱いており、彼のせいでスパイと疑われ親指を失ってしまった。
その真相がやがて明らかにされていくが、そこにあるのはただ一人の女性に対する愛だけだった。
アルマシーとキャサリンが夫婦という関係であれば、純愛と言ってもいいのかもしれない。
しかし、アルマシーは人妻であることを知りながら彼女に意図的に近づき、そしてキャサリンも夫に対する後ろめたい気持ちがありながら、彼との関係を断つことも出来なかった。
アルマシーはとても自分勝手な男である。自分の想いを満たすことが出来るのであれば、誰かが傷ついても構わない。悪意があるわけではなく、その事以外に考えられなくなってしまうのだろう。
結果的に彼女を想う気持ちが強すぎたゆえに、彼女を失うことになってしまったアルマシー。愚かではあるが愛のために真っ直ぐでいられる彼の心に尊さも感じた。
砂漠の中、怪我をして動けないキャサリンをアルマシーが抱いて歩くシーンは感動的で美しい。
火傷によって顔が崩れてしまった現在のアルマシーの姿があるから、なおさら過去のシーンの美しさが際立っているように感じた。
終戦の知らせを聞いて喜ぶ兵士たちのせいで、不発弾の処理をしていたキップが危うく命を落としかけたシーンはハラハラさせられた。そしてまたしてもハナが大切な人を失ってしまうところだったのも。
戦争によって結ばれた人の絆もあるけれど、それ以上に戦争によって失った命と人との繋がりの方が大きい。
結局終戦後に広場に仕掛けられた爆弾がきっかけで同僚を失ったキップはショックから立ち直れずにハナの元を去っていく。
そして、キャサリンとの愛の記憶の中で生きているアルマシーも、最後にハナに永遠の眠りにつくお願いをする。
観終わった後に、ずんと気持ちが沈むような美しくもあるが、ヘビーな内容の作品だった。
SANKOU

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