【1976年キネマ旬報日本映画ベストテン 第1位】
監督デビュー作にしてベストワンに選ばれた長谷川和彦は『太陽を盗んだ男』を最後に映画界から消えてしまった。中上健次の短編小説『蛇淫』を原作に田村孟が脚本を書いたが、長谷川が著しく改変したという。
日本版『イージー・ライダー』『俺たちに明日はない』とも言うべきニューシネマ。大きな理由もなく衝動的に殺人を犯した主人公のロードムービーという筋もさることながら、既存のロックが劇中にかかることもニューシネマ的である。
暑苦しい雰囲気は今村っぽいなと思っていたらやっぱり今村が製作に関わっていた。端正な出来かというとそうではないが、押しの強いかなり力業な作品。
市原悦子演じる母の過保護っぷりが面白く、彼女の殺害シーンをじっくりみせるのがなかなか恐ろしい。
目的もなく逃げるだけ。捕まりたいのに捕まえてくれない。まさに青春時代のやるせなさ、焦燥感を上手く表現している。「誰か俺を止めてくれ」と言わんばかりの水谷豊の存在感もよかった。
原田美枝子は信じられないくらい棒演技なんだけど意図のうちなんだろうか。でもそれが逆にあまり人間味がない悪魔的なものにも思えてきて不思議だ。
対して好きではないが、日本のニューシネマの幕開けを象徴する作品として価値があると思った。