SANKOU

青春の殺人者のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

青春の殺人者(1976年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

好きな女と一緒になることを反対されたから、そしてその女を侮辱されたから、それだけの理由で果たして両親を殺せるだろうか。恐らく普通の感覚を持った人間なら、順の気持ちに共感できる人はほぼいないと思う。
冒頭順と幼なじみのケイ子が「光るは親父のハゲ頭」と言葉遊びをしながらじゃれあうシーン。まだ若者とはいえ、あまりにもその姿は幼い。
普通の人間とは決定的に違う思考回路を持った順。決して彼は誰彼構わず人を殺すような殺人鬼ではないが、彼は普通なら考えられない親殺しをしてしまった。
順も知らないケイ子の秘密を彼に話してしまった父親。同時にそれはケイ子を侮辱する行為であり、順は父親を包丁で刺し殺してしまう。
本人も予期していなかった殺人。彼はやってしまったものはしょうがないと開き直る。
母親も順まで失う訳には行かないと、父親の死体処理を手伝う。一緒に逃げようと、もしかしたら自分はこうなることを期待していたんじゃないかと狂喜に目を輝かせる母親の姿も十分に狂っている。
順にすがりつく母親だが、その姿は親子の関係というにはあまりにも艶かしい。急に女を出してきた母親を、順は突き飛ばす。
豹変した母親は順にシーツを被せ、包丁で突き殺そうとする。血を分けた親子が死に物狂いで格闘するシーンは、観ていて寒気を感じた。
やがて順は母親を取り押さえる。母親は観念して「痛くしないで」と頼む。躊躇しながらも順は包丁を何度も母親の身体に突き立てる。「これで働かなくてもいい」と母親が息を引き取るまでの時間が、観ていてとても苦しかった。
順の行動はとても刹那的だ。その時の感情のままに動き、自分がどうなってしまおうと知ったことではない。
何もかもがヤケクソだが、そんな順にケイ子はどこまでもついていく。
何度も順はケイ子を突き返すが、それでも気がついたら彼女は側に戻ってくる。
ケイ子自身はなかなかに強かなところがあり、決して順に振り回されるだけの弱い存在ではない。
しかし、彼女にとっては順はなくてはならない存在であり、彼女はどんなことがあっても順の側を離れられない。
親殺しのあまりにもショッキングなシーンが頭にこびりついて離れないが、順とケイ子の愚かでぶっ飛んだ関係は喜劇的でもある。
絶妙なタイミングで流れるゴダイゴの曲も、この映画には似合わない爽やかさを演出している。そしてそれが一層順の救い用のない哀しみを際立たせているようにも思わせられる。
順が機動隊による検問で、自分は親を殺したんだと告白したのに、誰もまともに相手をしようとはしない。最後に順が親から託されたスナックに火をつけて自殺しようとするが、ケイ子に助けられおめおめと生き延びてしまう。
泥だらけになりながら野次馬に混じって火事を見つめる順とケイ子を誰も注目しようとはしない。
世の中は思ったよりも、人に対して無関心なのかもしれない。
結局自分を助けてくれたケイ子を残して、順はトラックに隠れて街を去っていく。それでも二人がまた巡り会う日は来るのかもしれない。
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