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ケースのためにできることのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ケースのためにできること(2014年製作の映画)
3.5
【極限状態の終活】
現在開催中のEUフィルムデーズ。無料で大傑作『ファイナル・カット』を観させていただいたので、申し訳ないと思いドキュメンタリー映画のパックをレンタルしてみた。『父から息子へ ~戦火の国より~』は以前観たので、『ケースのためにできること』に挑戦してみた。自閉症を扱ったドキュメンタリーは数多く存在する。NHKでも定期的に海外の福祉ドキュメンタリーで取り上げられる。しかし、本作は自閉症の息子を持つ親が老境に差し掛かった時にどうすればいいのかという珍しい視点で描かれた作品だ。そして極めてシビアな内容に涙しました。

ケースは自閉症を抱えている。幼少期から拘りが強く、両親の咀嚼音が気になり、20年以上食事は一人で取っていたり、外の気温が高かったり、目の前にドイツ車が走っていると起こり始めたりする。そんな彼を両親は、地方都市で二人三脚育ててきた。しかし、そんな両親も老境に差し掛かり、死を意識するようになってくる。自分たちの死後、ケースは一人でやっていけるのだろうか?ケースに献身的だった、母が病で倒れ、父は自分の限界に気づく。常にケースに譲ってきた自分。妻はケースが自己肯定感を損なわないように過保護に育ててきた。妻が倒れ、狼狽するケースを見て、父は内なる闇に取り込まれそうになるのだ。ケースは44年も自分ファーストで生きてきた。なので、今から社会のルールを教えようにも露骨に拒絶する。変化を嫌うからだ。そんなケースに何を残せるのだろうか?ケースが幸せな人生を自分たちの死後、送れるためにはどうしたら良いのだろうか?夫婦は、同様に自閉症の子を持つ者同士集まって、共同体を作ろうとする。役所と掛け合って、自閉症のための住宅街を作ろうとする。ただ、予算の関係もあり一戸建ての案はなかなか飲んでくれない。かといって、自閉症にとって一つ屋根の下で共同生活させるのは至難である。ねむの木村のような共同体を作るのはそうそう簡単ではないのです。

本作は、解なしとも思える究極の終活、そして絶望的な介護を描いた作品だ。両親は、息子の長所を見出し伸ばそうと日本語教室に通わせ、褒めることで少しでも彼を幸せにしようとする。しかし、それができなくなるタイムリミットが見えている中でどうすればよいのだろうか?監督も明確な解答や、有効策が思いつかなかったらしく宙ぶらりんな状態で映画は終わる。本作は6年前の作品だが、果たしてケースは無事にやっていけているのだろうか?

フェルマーの最終定理並みに難解で身動きの取れない問題に、観ている方も窒息しそうになるドキュメンタリーでした。
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