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GAGARINE/ガガーリンのくりふのレビュー・感想・評価

GAGARINE/ガガーリン(2020年製作の映画)
3.5
【家なき孤】

『ライフ・オブ・パイ』との類似を挙げる意見もあったので、厳しい現実に幻想の力で対抗する話?…だとしたら面白いかも、と行ってみた。

最近、実際にあった、フランスのガガーリン団地の取り壊し工事を撮りおさめ、それを甘党フィクションで包んだ光る小品。

主人公の黒人青年はある事情から、団地に“残る”ことになるが…、という肝のアイデアは面白い。どうなることやら、嫌でも結末を知りたくなる…んだけど、段々と肩透かしでした。

家庭事情や本人の性格から、ああいう選択をする人物だとはわかりますが、物語として面白くはない。イジイジせんで、残るなら、生きるなら…抗戦しろよ!と思ってしまう。

ヒロインをロマの少女にして、ああいう役回りをさせたことも、座り悪く感じる。なんか、ヌルいんです。

ロマが徹底的に、住まいを追われることは作中でも描かれ、ある点では、主人公よりずっと過酷に生きている。少女はそれを自覚している筈で、だったら主人公の尻を叩いてほしいと思っちゃう。弱者を弱者で終わらせずに。そのために二人は知り合ったんじゃないのか。

少女を演じるリナ・クードリは可愛らしく、眺めて飽きませんでしたが、主人公のグダグダ時間を減らして、彼女の物語をより、彫り込んで欲しかった。おかげでリナちゃんご活躍らしき『フレンチ・ディスパッチ』は、見たくなりましたが。

映像は、程よく尖っており善かった。時々、『コヤニスカッティ』か!と苦笑したくなる、妙に贅沢なスケール感が、心を惹きます。

何にせよ、妄想宇宙に溺れる前に一歩、まず外に出なくちゃね。

<2022.3.9記>
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