KnightsofOdessa

Memory House(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Memory House(原題)(2020年製作の映画)
1.0
[記号と比喩に溺れた現代ブラジル批判]

真っ白に光り輝く近未来風の工場で、防護服を来た男が穴の空いた自身の手袋を見て慌て始める。彼の名前はクリストバム。古くからこの地に暮らす黒人の老人である。舞台はブラジルの南部らしいが、既に流入したドイツ人のコミュニティが完成しており、元から暮らしていたクリストバムのような有色人種はコミュニティから疎外されているのだ。幾度となく無神経な侵入者たちに蹂躙される彼の家は既にボロボロで、落書きだらけの壁を剥げば壁画が眠っており、そこかしこに土着文化的なアイテムが転がっている。彼と白人たちの対比の他に、有色人種のコミュニティにおける彼のミソジニックで家父長信奉的な態度も露呈していく。しかし、今の時代にブラジルの非白人を黒人だけに押し付け、それに土着信仰を記号的に絡めて文化の蹂躙を描くのはあまりにも単純過ぎるのではないか。現代ブラジルにおける人種差別、資本主義による植民主義被害、先住民族の文化保護、ミソジニー、マチスモといったテーマに対して、記号や比喩に溺れて塗り潰してはいないか(ジョーダン・ピールを目指した悲惨な結果というレビューは面白かった)。ゆったりとした映像で寓話を語るという非常に映画祭向きな作品だが、媚を売りすぎている気がする。『Bacurau』を送り出したカンヌが翌年にこんな作品をラインナップに加えるなんて、どういう神経しているんだ?
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