しん

FLEE フリーのしんのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
3.8
「逃げる」ことに人生を捧げた(捧げさせられた)一人の難民の物語です。アミンはアフガニスタン、ロシア、エストニア、デンマークといった国々で、さまざまな外部から逃げ続けなければならなかった彼が、アメリカで講演をするシーンで思うことは、辛すぎて目を背けたくなってしまいました。開始直後とエンドロールでながれるアニメーションは、彼らが生きてきた(生きている)過酷な生涯を端的に表しています。

本作はアニメーション化することで、少しマイルドかつ観やすいように配慮しています。しかし傍観者でいることを許さないかのように途中で実際の映像が差し込まれます。エストニアの難民収容施設の劣悪さ、ロシアのマクドナルド、アフガニスタンの共産党政権成立やムジャヒディンのカーブル侵攻など、実際の映像が挟み込まれることで、この物語がリアルなものであるという感覚を生みます。

本作のコアなメッセージのひとつは、「死ななければよかったわけではない」ということです。精神科医の質問にもありますが、私たちは死ななければ「よかった」と言いがちです。しかし過酷な逃避行は、それだけで精神を蝕みます。それは回復不能なほどのダメージを与えます。安易な「よかったね」が無責任であることを本作は強く警告します。

真に学びの多い作品でした。素晴らしいアニメーションをありがとうございました。
しん

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