ベンジャミンサムナー

FLEE フリーのベンジャミンサムナーのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.5
 本作は、『この世界の片隅に』ですずさんを「戦争の被害者」ではなく「等身大の一人の女性」として描いたのと似たようなアプローチで製作された作品になっている。

 「収監されてる時に取材に来た記者に助けを求めても、ただ撮影して帰っていくだけ」という劇中のエピソードから察するに、本作をアニメーションとして描くのは、出演者の身元を明かさないようにするだけではなく、実写作品として世に出しても難民のニュースの中に埋もれてしまうことを危惧してのことなのだろう。

 合間に"歴史"上の出来事を実写映像として挿入することで、その対比によってアニメーションで描かれるアミンの"個人"の物語が浮き上がってくる。

 定住できる場所が見つからない事と同時に、「自分が同性愛者であることを誰にも打ち明けられない」というまた別の悩みを持ってることを描くことも、「難民」というカテゴリーの中から「アミン」という個人をより際立たせている。

 ロシアの警察に腕時計を奪われてしまうが、中盤で知り合った男性に金のネックレスを貰ったりと、小道具を用いて人生の中で希望と絶望が流転する様を視覚的に示す演出も秀逸。

 アニメーションは、現実ではできない表現をするためではなく、現実をそれ以上に真に迫るものとして描ける媒体であることを思い知らされる映画だった。