CHEBUNBUN

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

3.2
【囚人たちの「ゴドーを待ちながら」】
2020年のカンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションに選出され、同年ヨーロッパ映画賞ヨーロピアンコメディ作品賞受賞したフランス映画『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』が、2022/7/29(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開される。本作は、スウェーデンで囚人のためのワークショップでサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を教えた実話をもとにしたコメディ映画である。監督は、『君を想って海をゆく』、『灯台守の恋』でフィリップ・リオレの右腕監督を務めたエマニュエル・クールコル。この度、試写で一足早く観賞したので感想を書いていく。

売れない俳優エチエンヌ(カド・メラッド)は刑務所の囚人たちに演劇を教えるワークショップを行うことになる。長年の友人からも煙たがられ、ワークショップでは制御不能な囚人たちの下品な振る舞いに頭を抱えている。そんなある日、囚人たちの破壊的な動きを「ゴドーを待ちながら」に重ねたら面白い公演ができるのではと考える。最初は、制御不能で厄介だと思っていた囚人たちも演劇自体には興味あることを知った彼は、歩み寄り始める。目指すは、刑務所外での公演。難色を示す職員を動かして、第スペクタクルへと発展していく。

囚人が演劇をする話といえば、第62回ベルリン国際映画祭(2012)で金熊賞を獲った『塀の中のジュリアス・シーザー』を思い出す。こちらの作品は、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」を囚人が演じる話であった。『塀の中のジュリアス・シーザー』と比べると、人間の心理や舞台上の緊迫感に迫った作品と言える。ただでさえ、何をするかわからない囚人たち。ミーティングではイキっている囚人たちも、お客さんを前にすると緊張する。大勢の前で何かをする経験はあまりしたことがないからだろう。ある囚人は、靴を脱ぐ場面で、脱げないアクシデントに見舞われる。焦る。泣きそうになる。でも公演は続く。失敗に終わってしまうのではという緊迫感が、幕の外側から漂う。焦る囚人と、それを悟りつつ演技を続ける囚人、それを見守るエチエンヌが織りなす臨場感が映画を盛り上げていく。

演劇とは、脚本に沿って完璧に演じられるものだと思いがちだが、実際には当日のハプニングをどのようにスペクタクルとして落とし込み、リカバリするかを考えていたりするのだ。その現場の焦燥を中心に描くことで、終盤に演劇のプロとしてある種の傍観者の立場にいた彼が、演技の幅を拡張させながらあるハプニングに対応していく場面に感動を覚えるのだ。

感動的な芝居とは、脚本というレールに沿ってただ演じるのではなく、人と人との対話や観客と舞台の空気を取り込み生み出されるもの。『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』は、その決定的瞬間を捉え続けた熱い作品と言えよう。

日本公開は2022/7/29(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN