mito

スパイの妻のmitoのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.5
2020年113本目。
公開前にヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞の快挙を成し遂げた、黒沢清監督作品。

第二次世界大戦に、人道的に道を踏み外した日本の蛮行を告発する情報を巡る、ある貿易商の夫婦の史実を元とした作品。
NHKのドラマを再構成して映画化した作品で、その流れは個人的にベスト作品の1つ、「その街のこども」に通じる。

更に監督が、黒沢清さんというNHKならではの豪華な布陣。

話としては上質な心理ゲームのような展開。
満洲出張から戻った夫と共にやって来た、謎の看護師の女、夫の不可解な動きの影響でスパイというあらぬ疑いを持たれた妻。

敢えて、作劇的な演出を徹底した本作において、そのコンセプトに120%のクオリティで応えるのが妻を演じる蒼井優。
この演技を見せられたら、大御所監督に寵愛を受けるのも納得。
正に昭和の白黒時代の映画的な台詞回しや演技を自然にやってのけるのだから、素直に恐るべし、蒼井優と言わざる得ない。

他にも高橋一生、東出昌大の二人もこのコンセプトにしっかり応えているし、役者のチョイスのセンスはかなり良い。

反面、根本にある731部隊という、第二次世界大戦、日本最大の恥部と言える蛮行を主軸に添えるスタンスは否定こそしないが、何かその点が説教じみているシーンがあったりとどうも機能していない感がある。

ただの舞台装置としてなら、この設定は良いが、作品全体がただの装置としてではなく「大戦中にこんな蛮行があったのだ!!悔改めよ、日本国民よ」という、メッセージ性を語りたいように感じられる演出になっている。
語りたいなら語れば良いのだが、それが、心理ゲーム的なスパイか否かというこの作品本質のノイズになってしまっているのは少し残念に感じた。

いずれにしても、重厚な読み合いゲームとしてはかなり良い塩梅で仕上がっているので、そちらを推してオススメしたい作品。
mito

mito