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スパイの妻のsomaddesignのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
5.0
なんかこのヒト怖い!

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1940年の神戸。聡子は、満州へ赴いた夫・優作の帰りを待ちわびていた。しかし、帰国後の優作は人が変わったようで、憲兵隊からも目をつけられ始める。満州で何があったのか、夫は何を隠しているのか。優作と家庭の幸福を守るため、夫の秘密を探る聡子が目にした驚愕の真実とは――?

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か、変わった映画ななー😓
黒沢清監督作みるたびに感じる感想がコレ。

元々NHK BSのドラマ版で放送されているのを知らなくて、「劇場版」てチケットに印字されてるのを見て「🤔?」となった。
なんかこうもっと時代に翻弄されたスパイサスペンスだったり、愛する人を信じたいけど・信じられない疑心暗鬼に苛まれる話かと思ってたら、どうやらそう言う事でもないみたい。

会話が終始一貫して文語調で過剰にドラマチック。シェイクスピア劇みたいで、劇的で禍々しい雰囲気を醸し出す。

聡子にしろ優作にしろ、常に何かを演じてるような二人だし、関係性・主従関係がコロコロ入れ替わるので、終盤まで誰目線のどういう物語か掴みかねてしまった。自分には掴み所が難しい、現実離れした昭和初期の暮らしが瓦解してくフワフワとした悪夢を見てるよう。

優作の愛のためにはどんな犠牲も厭わない聡子。自身の献身ならまだしも、他人の不幸も気にしない。愛に狂った聡子の狂気と当時の日本の狂気、ミクロとマクロの物語にも思えた。
大義のためならどんな犠牲を厭わない狂気だし、いざとなれば分隊長が聡子に密かな好意を寄せてるのを知ってて利用する。人の体も気持ちも、どれだけ踏みにじっても気にしない。盲目的に付き従い非道に堕ちる聡子の姿は、形を変えて当時の人々の姿でもあったような。

夫の秘密を暴く上、泰治の心象よくわざわざ和装して密告するのも怖いし、共犯関係が深まるほどにキラキラと嬉しそうになる聡子が超怖い。一番身近にいて、愛し愛される関係の人が一番おっかない。よく考えるとほぼホラーっちゅーか、ラストの展開も納得。

劇中で度々映される活劇の数々。映画そのものも映るし、随所にポスターやチラシがあって、時代に翻弄された(時には戦争に加担した)映画界への目配せのよう。中でも山中貞雄監督は若くして天才と期待されながら、新作封切り日に召集令状を受け取り神戸港から出征。翌年28歳の若さで戦病死してしまう。遺書がわりの陣中日誌の最後には『先輩友人諸氏に一言 よい映画をこさえて下さい』と締められていたという。
そういや冒頭とクライマックスも映画だし、映画を撮る事/見る事の危うさやホラー味についての映画だったとも。



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