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スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのRenのレビュー・感想・評価

4.5
オーパーツすぎて事件。まだまだ映画で「一度も観たことがないもの」を観られることの興奮と感動に泣いた。前作だけでも超絶大傑作だったけど、これでこのシリーズは永遠に歴史に残ることが確定した。大人気コンテンツのスパイダーマンとマルチバースをメタ的にあの手この手で調理するソニーピクチャーズに惚れ惚れする。

マルチバースを扱うならちゃんと構造から意味を持たせてくれないとキツいタームにとっくに入っているので、その点だけでも偉い。

140分全力疾走で駆け抜ける今作の新鮮さと視覚情報量はまさに桁違いだった。チカチカと忙しなく、前作を遥かにしのぐあらゆる解像度のキャラクターと風景が一同に会して異常なフレームレートで動きまくるスペクタクルが眼前を駆け抜けていく。疲れる。でもここは2部作ものの強みを活かして、じっくりと見せるドラマパートもそれなりに用意されてはいる。
あまりの情報量でカメラもぐるぐる回しているのでスパイダーマンらしい大味なアクションシーンは見辛い部分も多かった。登る/落ちるくらいの単純な二次元アクションのほうが概ね良かったかもしれない。

アニメ映画としてはかなり長尺で、時間を贅沢に使っている。ここがクライマックスかな?と思ったシークエンスが実は今作のテーマの前振り部分だった。オチだと思ったところがオチではないというフェイントも10回やられた。観賞中は腕時計など見ないように。どこまで進むか分からないライド感に身を任せて鑑賞されたい。

小賢しく手強いスポットはヴィランとして良さげだったものの、キングピンと比べると小物っぽさがありこの2部作を牽引できるか?と最初は懐疑的だった。が、それは杞憂だった。前述の某シークエンスを軸に、マイルスが対峙する相手もシームレスに巨大になっていく。じわじわと舞台を広げ、気付いたときには信じられないほど壮大な話になっている語り口がニクい。

前作では同一ヒーローの多様化を肯定したが、今作では歴史上幾度となく繰り返されてきた『スパイダーマン』ひいては「物語」そのものの呪縛と宿命に立ち向かった。物語が物語の、人生が人生の、世界が世界の形をし続けるために払われた犠牲と選択にフォーカスを当てる。
今までの『スパイダーマン』が「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉で主軸にしてきたようでいて実は煙に巻いてきた部分だ。今作は、その「責任」とは本当に尊いのか、という自省にも似た作品だと思った。他のどの作品よりも『スパイダーマン』がやることに意味がある、アンチスパイダーマン映画ですらある。

上述の問題提起は『天気の子』にも通底する部分があると思う。帆高は東京の崩壊よりたった一人の好きな子を選んだ。そういう世界の分岐点のドラマ。
今作では問題提起とクリフハンガーで解決編を後編に回したので(今作に満点を付けられない理由の一つ)次作も期待したい。

それを補強するのがマルチバースの数の暴力。所狭しと映るスパイディの群れを見て、マルチバースってこうだよなぁと納得できた。NWHで、たまたま自分達の知っているトビーとアンドリューとトムホの世界だけ出して「これが "マルチ" バースです!」としたことにモヤモヤし続けた自分も救われた。
そんな大量のスパイディ達全員に犠牲と選択の物語があって、だからこそそんな背景を背負って立つマイルスが映える。

また今作はグウェンの物語としても成り立っている。マイルスとは別のユニバースで苦悩し続ける彼女の物語の終着点にも注目したい。

その他、
○ ED曲『Am I Dreaming』が良すぎてリピート中。
○ これだけ大量のスパイディを出してもキャラが薄まらないのが偉い。前作に負けず劣らずの個性派揃い。
○ 黄昏時の空気感を纏ったブルックリンの風景がエモすぎた。実は今作最高のアニメ表現の一つ。
○ 某サプライズ(?)がファンサービスでなく必然の演出なのがいい。今作は全てのスパイダーマンへのアンチテーゼだから。
○ ヒントは全部出ている/考えれば分かる/フェア/なのに気づかなかった、という一番嬉しいタイプの驚き展開があってよかった!
○ 来年のアカデミー賞では長編アニメ映画賞だけでなく、作曲賞、歌曲賞、音響賞あたりでも暴れてほしい!
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