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フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦のesのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

間違っては無いんだけど、B級戦争映画でよくあるタイトルになってしまっている邦題が罪深い。このタイトルのせいでスルーしている人が多そう。クルド問題に関しては、民族の歴史や宗教などが絡み、全く知らない人間が映画を観てすぐに理解できる程単純な問題ではないので予備知識は必要だと思う。

トルコ南東部にある都市ディヤルバクルの中にあるスール地区を舞台に描かれる2015年8月から2016年3月にかけて実際に起きた出来事を基にした話。

スール地区はアラブ人、ユダヤ人、ペルシャ人、アルメニア人、トルコ人、クルド人が住む長い歴史のある地区。この地区には、1980年代クルディスタン労働党(PKK)とトルコ政府の紛争が起きた際に、PKKを支持した事で政府により強制移住を強いられた農村部の人々が数多く住んでいる。
トルコ政府とPKKの紛争は休戦と開戦を幾度となく繰り返し、2013年にPKKリーダーのアブドゥッーラ・オジャランが武力闘争の終了を宣言し休戦になったが、2015年ISISとの戦いの最中トルコ軍がPKKのキャンプを爆撃した事により事態が変わる。

この作品に出てくる闘争者達は、武器を握った事のない様な若者が多く、冒頭で故郷の地に向かう女性の姿と銃撃戦はまるで結びつかない。あの冒頭はとても効果的だと思った。

部屋に飾られているユニフォームが気になったので調べたらディヤルバクルのサッカーチーム、クルド人の選手も多く所属するアーミドSFK(アーミドSK)のユニフォームだった。
その横にはPKKのリーダー、オジャランの写真が2枚。間にザザ人とクルド人の両親を持ち闘争者であった故ユルマズ・ギュネイ監督の写真。スポーツによる戦い、武力による闘争、文化による闘争。三つが揃いかなりメッセージ性の強い壁になっている。

約1年間の攻防により住民は私有財産を政府に没収され、強制的に立退を迫られ多くの住居が破壊された。その後、スール地区はトルコ政府による宅地開発が行われたが住民達への補償金は微々たるもので、政府により住民を援助していたNGO団体の活動も禁止された為に多くの住民が別の土地に移る事を余儀なくされた。一部では、都市再開発の為の政府の筋書きだったとも囁かれているらしい。
5年が経ち都市開発が進められた現在の写真を見ると否定できないものがある。

ジャーナリストで短編作品やドキュメンタリーを撮ってきた監督の長編デビュー作品。エンドロールで語られる通り生き延びた二人が本人役を演じている。またその他の演者達も多くがISISとの戦闘に参加した経験のある役者ではない人々らしい。
2019年以降のトルコ軍の動向を考えるとまだ何も終わってはいない。

作品自体は主張が偏り一方的かもしれないが、そもそもトルコでは政府側の一方的な主張がなされている訳で、ある意味バランスが取れている。そういう意味でも、一つの証言という点で映画として以上の価値があると思う。だからこそもう少し邦題がどうにかならなかったのかと悔やまれる。
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