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夏への扉 ―キミのいる未来へ―のsomaddesignのレビュー・感想・評価

3.5
猫が可愛ければ大体のことは許される

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ロバート・A・ハインラインが1958年に刊行した名作SFの映画化。1995年の東京でロボット開発に携わる科学者・高倉宗一郎は、愛猫・ピートと尊敬する偉大な科学者だった亡き父の親友・松下の娘・璃子との平穏な日常生活の中で、完成間近となった松下の遺志を継ぐプラズマ蓄電池の開発に没頭していた。しかし、宗一郎は信頼する共同経営者と婚約者・白石の裏切りによって会社と開発中のロボットや蓄電池をすべて奪われ、さらにコールドスリープに入れられてしまう。

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コロナで公開時期がズレたおかげで、今映画館では名作SFを日本で映画化した作品が同時期公開になってて面白い。新旧対決のようでいて、50年代と2000年代、その時々最も勢いのある文化圏のSFで、景気や時流が作品と呼応してるのが面白い。科学が未来を照らせた時代と、進歩が必ずしも明るい未来に進むわけじゃないって対比にも思える。


原作既読。自分が読んだのは最近だけど、ある年齢以上のSF好きのオッサンなら中高生の頃だいたい読んでる印象。
映画化を知った時に最初に思ったのは「頼んでねえ!」
海外SF小説のオールタイムベストには必ずランクインされ、一説には「BTTF」のモチーフになったとも。また自動掃除ロボットやCADやワープロに相当する個人用端末が出てきたり、当時発表されたばかりの集積回路が早くも登場してて、後世の未来像に大きな影響を…(以下略)。

タイムトラベル×SF×ネコといえば、日本人が想起するのはドラえもん。今作でいうピートって、実はドラえもんなのか?
ネコの達観した眼差しがそうさせるのか、SFとネコの愛称は異常にいい。名作SFには大抵ネコが出てくる(気がする)。

覚悟してたより映画オリジナル要素が意外に嫌じゃない。原作自体が古典すぎて、今の目で読み返すと違和感が残る要素が多い。上手に現代の観客に受けられるよう改変すべきところを変えた感じ。
特に藤木直人ピートは、中盤以降がバディムービー化して超楽しい。冷凍睡眠の結果のカルチャーギャップコメディに加えて、人の常識とアンドロイドのギャップが笑いを生む。(モブキャラでアンドロイドのお姉さんが出てきてビックリした!)

共同経営者と秘書のベル(白石)がもっと酷い目にあって欲しいけど、アッサリ物語から消えるのも一緒。モヤモヤするわー😤
秘書の白石の登場から正体が暴露されるまで。怪しさを嗅ぎ取る前にやっぱりヤベエ奴なのが伺えちゃって、宗一郎が白石の何に惹かれて信頼してたのか分からない。エロに惑わされたい人っぽくなっちゃった。結局共同経営者の和人オジサンには文句の一つも言えてないし。

古いタンスみたいに、原作の問題をひとつ引っ込めると、別の箇所が出てきちゃう。

クライマックスに至って、宗一郎がすごい勝手。いろんな人の今後の人生を彼の一存で決めちゃう。たとえ将来そうなるのが分かっているとしても(タイムパラドックスがない設定なので)、それぞれの人に意思決定する余地を残して欲しかった。
「TENET」の時も思ったけど、未来を変えるために過去を変えた…つもりだったけど、結局決まってる未来に向かってしか生きてないってことでもある。人間がする選択や行動って、ほんとに自分の選択なのか不安になる。考えれば考えるほど、気持ちが不安定になるのもSFの醍醐味かも。

登場人物が誰も何も食べないのが気がかり。
レンコン入りハンバーグや鍋の話題は出てくるものの、実際に食べるのはランチパックだけ(山崎賢人がCMしてるせいかも)。ロボットと違って人間は食って寝ないと死んじゃうよ! 家でやけ酒するのにスキットルから飲んでるのも謎。普段から酒を持ち歩くタイプなんだろか?

正直、初めて原作を読んだ感想は「おっさんの妄執が透けて見えてキモい」。若く美しい少女にずっとモテ続ける話だし、純愛モノってよりタイムトラベルを繰り返した結果、同意年齢に達したから恋に落ちてもロリじゃないってオチに思えてしまった。
映画版だと、その辺のモヤモヤがある程度解消されてるのでありがたい。ヒロイン演じた清原伽耶が少女にも大人にも見えるし、一応
自分の意思でその後の人生を選択してるのが救い。

きょうびのタイムトラベルものとしては、驚くほど一本道で頭が混乱しないので、ややこしい設定が苦手な人にはいいかも。
自分は文句はあるけど、猫のピートと藤木直人のピートがどちらも愛らしく大活躍してたのでなんでも良し!


37本目
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