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ウィリーズ・ワンダーランドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 いかにもハイ・クラスな大人の乗り物である青のシボレーカマロは田舎道を悠々と走るが、ある障害物を踏んで両輪がバーストし、路肩に止まる。男は「Shit」などという言葉を吐くこともないまま、黙々と缶のエナジー・ドリンクらしきものを飲み干す。そこへ通りがかった人がトラックの助手席に乗せ、修理工場まで運んでくれる。ここまでが1セットの壮大な「ゴ〇ブリほいほいゲーム」は、俯瞰で観れば小さな田舎町の壮大な罠である。イマドキこの世界のどこにインターネットが一つも通じない街などあるものかと思うものの、男は何の疑問も示さぬまま、修理工場主の手引きにおいそれと乗っかってしまう。いや、彼は最初から「NO」と言えないのかもしれない。そもそも彼(ニコラス・ケイジ )は開巻からここまでに何か言葉を発しただろうか?言葉を発せられない以上、どんな詐欺師の言葉にも彼は「NO」と返せないから答えは「YES」だ。主人公はこの巨大な罠に巻き込まれる。廃れたテーマパークに入った以上、絶対に外には出られない。どんなに喚こうが泣き叫ぼうが助けは来ないが、最初から一言も言葉を発しないのだから、助けを呼ぶ気もないのだ。彼はこのテーマパークの支配人の教えを忠実に守り、黙々と作業をこなす。腕時計に設定された時間きっかりに導かれるように作業に取り掛かる男は、謎のエナジー・ドリンクらしきものを飲み干し、景気付けにピンボールを1ゲームだけプレイし、それからフロア一帯を綺麗にして行く。この様子は折り目正しく、何度も何度も映画内でルーティンされる。さながら黙々とこの反復を繰り返す姿を見て、主人公はロボットではないかと疑った人も多いと思う。

 曰くありげな『ジョン・ウィック』の変奏のようなB級作品は88分とB級プログラム・ピクチュアの定型を守るものの、『ジョン・ウィック』シリーズ以上に神秘的で謎が多い。そもそも主人公は何のためにこの地へやって来たのか?いつものような町ぐるみの罠は彼をゲームの罠に巧妙に嵌めたかに見えて、実は逆に男の罠に嵌っている感すらある。それはリヴ(エミリー・トスタ)と初めて会った時の彼の驚きに満ちた表情にも明らかだ。男は用意周到に自らゲームに巻き込まれ、計画通りにレジャーランドの名物キャラ達を次々に返り討ちにして行く。そもそも武器という大それた武器を使わずに彼らを叩きのめすやり口が一般人のそれではない。それなりの訓練を受けた傭兵か殺し屋のような手口で、言葉を発しない男は人間の言葉を発しない機械どもを次から次へとなぎ倒して行く。そこで行われるのは容赦ない残酷描写ばかりだが、鮮血の代わりに飛び散るのは真っ黒なオイルで、砕けるのはプラスティックの目玉であり、体内から抜き取られるのは機械の背骨と生身の人間のレーティングに配慮した苦肉の策ばかりだが、何か非常に斬新に映る。中盤、リヴ御一行が主人公を救うためにテーマパークに侵入する辺りからホラーに加えてオカルトの要素も加わり、ホラー映画の定型に倣い、聖女以外はことごとく惨殺の憂き目に遭うのだ。謎の多い今作の中で、主人公とリヴの結び付きだけはひたすら強固で、切っても切り離せない。なぜ彼女は仲間たちを危険に晒してまで彼を救いに行ったのか?そしてクライマックスのアイコンタクトが何を意味するのか?いかにも続編ありきではあるものの、全ての意味を取っ払った実に痛快な88分間である。西部劇の傍流にも見える。こういったB級作品にはニコラス・ケイジがやけに似合う。
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