えくそしす島

僕と頭の中の落書きたちのえくそしす島のレビュー・感想・評価

僕と頭の中の落書きたち(2020年製作の映画)
3.5
【アイデンティティ】

"統合失調症"
その向き合い方と支え方を描いた作品

監督:トール・フロイデンタール
脚本:ニック・ナヴェダ
原作:ジュリア・ウォルトン
小説『Words on Bathroom Walls』

あらすじ
高校生のアダムは実験の授業の最中、目の前に幻覚が現れたことで事故を起こしてしまう。統合失調症と診断され、母と一緒に治療を模索するのだが…。

この病特有の、誰にも共感されず「わからない」という苦しさを追求した映画が「クリーン、シェーブン」。

それとは対照的に、今作は題材の重さの割に明るめで非常に観やすい。3人の個性的な幻覚のキャラクター達をはじめ「症状描写」もポップに表現し、時にコミカルに感じるほど漫画チックでもある。

一見、青春ドラマ風を思わせるが、次第に「何を伝えたいのか」が表面化してくる描き方をしているのが今作だ。

統合失調症は約100人に1人が患う精神疾患。決して珍しくもないが、どーしても多くの人が思い浮かび、頭をよぎるのが

「危険性」

目の前で起きた事が幻覚でも本人には現実と同じ知覚。それによる事故や事件。本人にしかわからない“主観と孤立感“。他人にしかわからない“客観と共感性の欠如“。そこから生まれる障害や弊害。

幻覚や幻聴、被害妄想や関係妄想により湾曲され、孤立し、塞ぎ、周りの想いは受け入れられなくなっていく様相。病に対する諦めにも似た観念とそれに反する自分の夢(料理人)の為に抗う姿。

本来の自分が病によってかき消されていく恐怖。病気だけを見られ、本来の自分を見てもらえなくなる残酷さ。自身が見ている世界と人が見ている世界に隔たりがある、その絶望感。

今作とは関係ないが、この病を聞くと昔見た話を思い出す時がある。それが

<統合失調症の弟から聞いた話>

「まだ全く正常だったころ、街中を一人で歩いていると突然一人の女性に話しかけられたそうだ。 弟は下心もあって、暫くその女性との立ち話に付き合うことにしたらしい。 その時になって、不意に自分が通行人から奇異な目で見られていることに気づいた。 あまりいい気分でもないので、場所を変えることを提案しようと女性に向き直ると、そこには誰もいない。

それ以降、弟は幻覚を見るようになった

弟は、バイト先で「この荷物を○○へ運んでくれ」と言われたからその通りにしようとすると、 店の外から店長が入ってきて、「その荷物はそっちじゃない。あっちの倉庫に置いてきてくれ」と言う。それに従うと、後になって店長が「何故○○に持って行かなかったんだ!」と怒るので、「あなたがそういったんじゃないですか」と反論したらクビになった。

道を歩くと必ず誰かに話しかけられる。その中には友人の顔もあったが、幻覚であるときのほうが多かった。

ある時、信号が青に変わっても横断歩道の上を絶え間なく走りぬけていく車と、平然とすり抜け歩いていく歩行者を見て、弟は家に引きこもることを決意したそうだ。

「ストレスとか、鬱とかそういうのがあったわけじゃないはずなんだ。ある日突然、何の兆候もなく世界がおかしくなった。 何を信じればいいのか、もうわからない。」弟はそう言った。

この話を俺にするのはこれで○度目だというが、話を聞くのは初めてだった。」

今作はその難しいテーマ、そして周囲の葛藤や自身の病状を含め「どう認め、どう受け入れるのか」という問いに対し、一つの答えを示している。

その為の観やすさ、その為のコミカルさ、その為のテンポの良さ。理想的且つ前向きな話だからこそ、窓口が広く、気付かせ、本質を考えるキッカケを与えてくれるのだろう。